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「幻の光」是枝裕和

是枝裕和監督の劇場映画デビュー作である。1995年の作品だから25年ぶりに見た。わりと好きな作品として記憶に残っていたが、改めて見ると新人監督のデビュー作としてはあまりにも出来上がっている。是枝監督は、自らを振り返って「画コンテ」を完璧に作って撮影に臨んだと書いてあった。しかし撮影現場で起きていることを取り入れる余裕がなかった、と述懐している。事前に決めこまれた映像の完成度は高く、とにかく成熟した映画のイメージだ。 侯孝賢かテオ・アンゲロプロスか、というくらいロングショットが多い。ラストの海辺の葬列などは、まさにアンゲロプロスのようだ。

とにかく映像が美しい。中堀正夫のカメラは、すべてのカットが美しく抑制されていて決まっている。何度も出てくるトンネルやガード下のフレームショットの光と影、窓のフレームを生かした日本家屋の美しさ。大阪の街並みも日本海の田舎の海辺の映像も美しい。人物はしばしばシルエットで撮られ、寄りのカットはほとんどなく、引きのロングショットが多用されている。映像は美しいのだが、役者はそれほど魅力的ではない。印象的な表情がないので、人物造形が物足りない。是枝監督の演出が得意な子役でさえも。風景に配置されたまま、台詞を言っている感じ。映像が主で、役者は従のようだ。夫・浅野忠信の突然の死をめぐる妻・江角マキコの不安と闇は、風景としての映像では伝わってくるが、人間の感情として伝わってこない。結局、すべて同じトーンなのだ。

それでも全編を覆う死のイメージには惹き込まれる。自転車、電車、バス、船、海。死の世界への境界の入り口となる様々なイメージが、画面を覆っており、江角マキコの黒っぽい衣装とともに、その立ち姿のシルエットばかりが印象に残る。アパートの部屋とか路地とか建物とか風景がとても印象的で、そのすべてのカットは素晴らしい。日本家屋の縁側での家族でスイカを食べるシーンは、後の是枝映画に引き継がれる定番の家族ショットだった。ラストの柄本明と江角マキコの「いい陽気になりましたねぇ」は、まさに小津安二郎の「東京物語」の世界のようだ。いろんな映画へのオマージュが感じられるところが、新人監督の初々しさといえるのかも。

是枝監督は最初から生と死の世界の狭間、虚と実の皮膜の間を描き続けている監督と言えるだろう。この次回作の「ワンダフルライフ」もまさにそうだったし、最新作「真実」もまた同じテーマを描いている。

製作年 1995年
製作国 日本
配給 シネカノン=テレビマンユニオン
上映時間 110分
監督 是枝裕和
製作 重延浩
企画・プロデューサー 合津直枝
原作 宮本輝
脚色 荻田芳久
撮影 中堀正夫
音楽 チェン・ミンジャン
美術 部谷京子
キャスト:江角マキコ、内藤剛志、浅野忠信、柏山剛毅、渡辺奈臣、木内みどり、柄本明、桜むつ子、赤井英和、市田ひろみ

☆☆☆☆4
(マ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

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