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「海を駆ける」深田晃司

深田晃司の映画で見ていなかったので、ずっと気になっていた作品。しかし、これは何と表現すればいいのか。まことに奇妙な映画である。深田晃司のほかの作品に比べて、不穏な空気がない。インドネシアの海と浜辺の街が舞台なだけに、広がりがあるし、明るいのだ。ファンタジーのようでもあるし、解釈不能な不思議さのまま、観客に投げ出されている。

『淵に立つ』にしても『よこがお』にしても、最近作のテレビドラマ『本気のしるし』にしても『歓待』にしても、基本的に閉鎖的空間が舞台だ。夏休みの映画としてある『ほとりの朔子』は、夏の海と山の田舎が舞台だが、ここまで明るく広がりはない。近未来SFともいうべきアンドロイドが出てくる『さようなら』の空間も閉鎖的で、世界の終末が描かれ死の気配に満ちている。ただ、家族の日常に異端者が侵入してくる物語が多い深田晃司の映画パターンは同じなのだ。『淵に立つ』の浅野忠信、『よこがお』の市川実日子、『歓待』の古舘寛治など、どの異端者も不気味でこれまでの日常を脅かす不穏な存在だ。それが、この映画の奇妙な海の化身のようなジーン・フジオカ演じるラウは不気味じゃないのだ。日常も脅かさない。

浜辺に裸で現れた記憶喪失の男として登場し、日本語がわかるということで鶴田真由の家に居候することになるラウ。息子のインドネシアとのハーフの太賀、いとこの日本からやってきた女性サチコ(阿部純子)、彼女に思いを寄せるインドネシア青年クリスと、幼馴染のイルマの4人の若者の青春恋愛話が絡んでくるのだが、ラウの奇妙な存在は、謎のままだ。どちらかというとファンタジーのように癒しの存在として描かれる。熱中症の少女を治したり、枯れた花を咲かせたり、水をお湯に変えたり、サチコの父の思い出の場所を夢を通じて教えたり、不思議な力を持つ謎の男として描かれる。不気味ではないのだ。どちらかというと他愛もない4人の若者たちの恋愛模様の物語を中心に進行していく。

それが後半、サチコの父の想い出の地に行く場面から、奇妙な展開になっていく。テレビに見世物にされたラウは、時空間を瞬間移動しながら、マイナスのパワーを使いだす。鶴田真由を一瞬にして意識を失わせ(殺したのか不明)、水辺で遊んでいた子供たちを不思議な歌で川に誘い、殺したと村人たちに言われる。ジーン・フジオカ演じるラウはいつでも無表情であり、何を考えているかわからない謎の存在。宇宙人的な異端者である。人を殺めるのも、癒すのも、善悪の価値観で行動している存在ではない。それは自然そのもの、海そのものということか。2004年のスマトラ島沖の地震で津波の被害があった浜辺の町が舞台であり、海は津波のような恐るべき脅威でもありながらも、美しく豊かな自然として恩恵を受け、人間は海とともに暮らしている。その両義性は善悪を超えたものである。この映画の登場人物は、不思議な存在ラウをそのまま受け入れている。不思議パワーを見世物にしたジャーナリストの女性だけを除いて。ではなぜ、そのジャーナリストではなく、鶴田真由の意識を奪ったのか。そんなことにきっと理由はないのだろう。

この映画が物足りないのは、そんなラウが不思議なまま、最後は若者たちと海を駆ける笑顔とともに消えていき、ちっとも怖くないからだ。不条理さや理不尽さがないのだ。これまでの深田晃司映画のように不気味じゃないのだ。癒しの存在であるかのようなファンタジー的展開と4人の青春模様が、妙に明るいまま終わってしまう。ただただ、よくわからない存在とその奇妙な存在を描いた映画として印象が残る。もっと不条理な不気味さがあったほうがいいと思った。死の気配がまるでなく、この明るさにどう反応していいのかわからない。

最後の場面で、サチコの衣装が変わっているのも奇妙に感じた。サチコがベッドのある部屋でラウと語る別荘のバルコニーの場面の時間設定、そして父の散骨する場面からサチコとクリスだけ衣装が変わっており(日替わりなのか、ただ着替えたのか?)、太賀とイルマの衣装は変わらぬままなのが変だ。船着き場の待ち合わせ場所の奇妙なすれ違いから、なんか違和感がそのままありつつ、映画が終わった感じだ。時空間がズレる感じを演出したかったのか、不明である。
この映画は失敗作なのかなと私には思える。


2018 日本=フランス=インドネシア 
東京テアトル配給
監督・脚本・編集:深田晃司
撮影:芦澤明子
照明:永田英則                           
音楽:小野川浩幸
キャスト:ディーン・フジオカ、太賀、阿部純子、アディパティ・ドルケン、セカール・サリ、鶴田真由ほか
発売・販売:アミューズソフト
(c)2018“The Man from the Sea”FILM PARTNERS

☆☆☆3
(ウ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

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ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
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              2013年映画ベスト5
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            1、「愛、アムール」
            2、「ホーリー・モーターズ」
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            <日本映画>
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            3、「恋の渦」
            4、「リアル 完全なる首長竜の日」
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            2012年映画ベスト10
          <洋画>
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          6、「ドライヴ」
          7、「風にそよぐ草」
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    3、川の底からこんにちは
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2009年映画ベスト10
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<日本映画>
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    2、空気人形
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    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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