「レスラー」

プロレスにはストーリーがある。その段取りのストーリーに幻滅していった人も多いだろうが、格闘技でありながらショーでもあるというそのスタイルは、観客の暴力代償装置として機能していた。観客は血だらけになりながら卑怯な反則技に叩きのめされながらも、卑劣な悪役を最後には打ち倒すというヒーロー像を自分の代わりに重ねていた。日常では戦い打ち負かすことができない敵を代わりに見事にやっつけてくれることで、力をもらう。

それはあたかも物語というフィクションでヒーローを演じる役者と重なっている。物語が人に力を与えるのだ。そして彼らは求められるものを演じ続けなければならないのだ。二枚目なら美容整形をしてでもその役割を演じ続けなければならない。肉体がボロボロになりながらも、ヒーローは異教徒の悪役レスラーを倒さなければならない宿命なのだ。映画はプロレスが段取りの物語であることを強調する。この『レスラー』のザ・ラムは、ミッキー・ロークの俳優の実人生とそのようにして重なる。演じ続ける宿命を背負っているという意味合いにおいて。

映画は彼の孤独を浮き彫りにする。ファンから熱狂されるヒーローになった代償は、世界にたった一人であるという孤独だった。病気でリングに立てなくなったときに、現実の世界の方がリアルに彼を追い詰める。娘との関係やスーパーで。そこにはリングの上での予定調和のヒーロー物語はない。ミッキー・ロークもまたそのようにして現実の世界でのたうちまわったのであろう。

ファーストシーンからレスラーの背中をカメラは写し続ける。ヒーローはいろんなものを背負いながら前に進み続けるしかないのだ。たとえ肉体がボロボロになろうとも。

だから、ザ・ラムがマリサ・トメイの愛を振り切って、「俺の居場所はここにしかない」とリングに再び向かっていく姿は、追い詰められた孤独の果ての唯一の居場所としてのリングでもあるのだが、それは祝福すべき彼の場所なのだ。ミッキー・ロークがボロボロの肌をさらしつつ、再びスクリーンに帰ってこれたことに、ラストはザ・ラムの傷だらけの勇姿と重なって、おめでとうと言いたくなる。

マリサ・トメイがとっても素敵です。

☆☆☆☆4

(レ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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