「ティファニーで朝食を」トルーマン・カポーティ/村上春樹訳

村上春樹訳に誘われて、映画のほうが有名になったこの小説を読む。
オードリー・ヘップバーンが路地裏で子猫を逃がすシーンぐらいしか印象に残っていない映画だったが、原作のホリー・ブライトリーは、ちょっとイメージの違う女性だった。カポーティも彼女の配役には不満だったという。

もっとエロティックで空っぽで自由奔放な女性。

「空を見上げている方が、空の上で暮らすよりずっといいのよ。空なんてただからっぽで、ただ広いだけ。そこには雷鳴がとどろき、ものごとが消えうせていく場所なの」

そんな風に空の上で自由奔放に野生の猫のように飛び回り続けている女・ホリー・ゴライトリー。素性が謎の女であり、その美しさに多くの男が惑わされ、また振り回される。それでいて、彼女なりの一貫性の中で、自分に正直に生きているだけの女。

「男たちとセックスをして、金を搾り取っておいて、それでいて相手のことを好きにもならないなんて、少なくとも好きだと思おうともしないなんて、道にはずれた話だってことよ。」

「女たるもの、口紅もつけずにその手の手紙(ラブレター)を読むわけにはいかないもの」

女としてのプライドだってあるのだ。それでいて、不安におののくところもある。

「私は怖くてしかたないのよ。ついにこんなことになってしまった。いつまでたっても同じことの繰り返し。終わることのない繰り返し。何かを捨てちまってから、それが自分にとってなくてはならないものだったとわかるんだ。」

一つのところにじっっとしていられない美しい奔放な女に振り回されるのは、男の常だ。
「空に向けて飛び去ってしまう」鳥のような女をいつも思い出しながら、

「空を見上げて人生を送ることになる」

という訳だ。

村上春樹の解説がなかなか興味深い。
「カポーティの物語の主人公たちもまた、そのような狭間(霊的と物質的)に生きている。彼らの多くはイノセンスの中に生きようとする。しかし、イノセンスが失われたとき(多かれ少なかれそれはいつか失われることになる)、それがどこであれ、彼らの住んでいる場所は檻のようなものに変わり果ててしまう。そして、そこに残されているのは、婉曲的な自傷行為でしかない。」

「主人公の「僕」がもう一度ホリーに会いたいと思いながら、そのことについて積極的になれないのは、イノセンスの翼を失ってしまった彼女の姿を見ることに恐怖するからだし、おそらくそうなっているのではないかという予感があるからだ。彼はおとぎ話の一部としてのホリーの姿を、永遠に脳裏に留めておきたいのだ。それが枯れにとってのひとつの救いになっているからだ。」

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