内田百閒の幻想短編小説集「件(くだん)」

あわあわと とりとめもなく 風に吹かれて 歩いていると
ふらふらと とんでもないところへと よろよろと まよいこむ
ぴーひょろ とんとんと ふかしぎな 笛と太鼓の拍子が きこえてくる

夢か幻か、現実の境界があやふやになるような話が結構好きである。だいたいそのようなあやふやな世界に落ち込むのは、夕暮れ時とか深夜とか闇が忍び寄る時が多い。場所も土手とか森とか。森や水や月や音や動物たちや船や列車やいろいろなモノに導かれて、あやふやな境界にさ迷い出でてしまうのだ。明るすぎる現代では、少なくなっただろうが、エレベーターとか倉庫とか古いビルや路地裏などがよく使われる。

件(くだん)という身体が牛で顔が人間という妖怪がいるらしい。

内田百閒の幻想短編小説集を読んでいたら、なにやら奇妙な「件」という小説に出くわした。自分がいつの間にか、その件という奇妙な動物になっている悪夢のような話だ。

カフカの「変身」では、ザムザは朝起きると一匹の毒虫になっていた。この百閒の「件」は、顔は人間で身体が牛である。理由は何も示されない不条理の世界だ。

この話は、不気味というより、なんだか滑稽で可笑しいのだ。

この言い伝えられている伝説の「件」は、3日以内に予言をして死ぬと言われているのだ。しかし、突然なにやら「件」になってしまったその男は、「予言すべきことなんてない!」と困る。それでも村の人々は、その予言を聞きにゾロゾロと集まってくる。そして、「件」の一挙手一投足に注目が集まる。「件」になってしまった男は、見物人の中に、人間だった頃の知り合いを見つけて、視線をそらし、見つからないようにオロオロしたりするのだ。

  「こんなものに生まれて、何時迄生きてゐても仕方がないから、
   三日で死ぬのは構はないけれども、預言するのは困ると思つた。」
                     内田百閒「件」より

「件」とは、「くだんの用件」とか言う時の「件」である。
その件(くだん)に、そんな妖怪伝説があったのなんて知らなかったなぁ~と思って、ネットで調べてみると、画像はいっぱい出てくるし、「件」を題材にした小説も他にもあるらしい。(小松左京、岩井志麻子)

ウェキペディアでは
件(くだん)は、古くから日本各地で知られる妖怪。「件」の文字通り、半人半牛の姿をした怪物として知られている。
幕末頃に最も広まった伝承では、牛から生まれ、人間の言葉を話すとされている。生まれて数日で死ぬが、その間に作物の豊凶や流行病、旱魃、戦争など重大なことに関して様々な予言をし、それは間違いなく起こる、とされている。また件の絵姿は厄除招福の護符になると言う。

とある。
人面魚なる伝説が生まれたときもあったけれど、最近の「空から降ってきたおたまじゃくし」騒ぎは、なにかの不吉な予言だったのかも?

いろいろと人間は、いろんなことを想像し、いろんなことで納得し、いろんなことでアタフタし、いろんなことで安心する。

いと、おかし ですね~。

(く)
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