「バーン・アフター・リーディング」コーエン兄弟

コーエン兄弟の作品は、乾いている。湿っていない。なんというか突き抜けていて、湿った情に流されるような世界じゃないのだ。

前作『ノーカンントリー』にしても不条理なまでの暴力を描いたもので、そこにはセンチメンタルな心理描写などない。徹底して突き抜けているのだ。

この『バーン・アフター・リーディング』は、『ノーカントリー』とは対極の不条理ともいえる乾いたバカバカしい笑いの世界だ。『ノーカントリー』の方が、不気味な沈黙、暴力の重さと深さを描いたことで評価されがちだが、この『バーン・アフター…』の軽さや笑い、物事の糸の絡まり方もまた、不条理なほどナンセンスだ。単に、あぁ面白かっただけの喜劇ではない緻密な計算と演出が細部にわたって構築されており、そのバカバカしいまでの面白さは、やはりタダモノではない。この作品はもっと評価されてもいい。

そして、コーエン兄弟は役者がいつだって面白い。これは演出がうまいのだ。今回の作品の脚本は、役者のあて書きだったという。それぞれの役者を念頭において、キャラクター・お話を作ったということだから、はまり役も当たり前。最高に役者たちが生き生きしてるし、役者たちも楽しんでやっているのがよくわかる。

この作品の出色は、なんといってもジョエル・コーエンの妻、フランシス・マクドーマンドだ!『ファーゴ』の時のシリアスさとは一転して、ハジケきっている。美容整形のとり憑かれたイカレタ女。マルコビッチの車に激突はするし、ブラピの尻は叩くし、哀れスポーツジムの支配人(リチャード・ジェンキンス)の思いまで利用して…。

マルコビヴィッチのイカレ具合も最高だし、ジョージ・クルーニーの色ぼけ具合もはまってます。そして、ブラッド・ピッドの馬鹿さ加減も最高です。マルコヴィッチに最初に車で殴られて、鼻血を出す場面、車の中でipodを聴きながら踊ってるシーン、もう笑えます。こういうブラッド・ピッドを引き出したコーエン兄弟の演出に拍手です。
ティルダ・スウィントンの診察シーンもヒステリックで笑えたなぁ~。

テンポ良く、雪だるま式に転がりながら事件が展開していく手法はいつも通り冴え渡り、この映画の登場人物たちの糸も、どんどん複雑に絡まりだしていくところがまた可笑しい。それをCIA幹部たちが、報告し、状況を聞いているシーンがまた笑えるのだ。
「この事件で得たものは?」「何もありません…」

ナンセンスなドタバタと不条理なほどの展開。でもひょっとしたら、これはとてもブラックな政治サスペンスなのかも。一枚のディスクをめぐるCIA機密情報から、繰り広げられる欲望の連鎖と秘密裏の殺人。

ありもしないイラクの大量破壊兵器をめぐって、戦争まで起きてしまう時代なのだから。政治という現実の世界もまた、ナンセンスな不条理の暴力だったりもして…。
この映画は、コーエン兄弟流のナンセンスな政治サスペンス映画なのだ。


出演: ブラッド・ピット, ジョージ・クルーニー, フランシス・マクドーマンド, ジョン・マルコヴィッチ, ティルダ・スウィントン
監督: ジョエル・コーエン;イーサン・コーエン

☆☆☆☆4

(ハ)

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テーマ : アメリカ映画
ジャンル : 映画

tag : コメディ

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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