『できそこないの男たち』福岡伸一

『生物と無生物のあいだ』に続いて、福岡伸一氏の
『できそこないの男たち』読了。

これもなかなか示唆に富んだ話がてんこもり。

男と女、どちらか高等か?という話がある。

生物の高等・下等は何で決まるか?それは分化の程度である。すなわち目的に応じてより専門化が進んでいること。その視点から見ると答えは明らかである。
女性は、尿の排泄のために管と生殖のための管が明確に分かれている。しかるに男性は、尿の排泄のための管と生殖のための管がいっしょくたである。つまり女性の方がより分化が進んでいる、と。

世の男性諸君。怒るなかれ。「どちらが高等か?」という問いそのものがナンセンスではあるが、生物学的には、とても大切なところを突いた話なのである。

ボーヴォワールは
「女に生まれるのではない、女になるのだ」と言ったが、
生物学的には
「人は男に生まれるのではない。男になるのだ」。


胎児は染色体の型に関係なく、受精後7週目までは同じ道を行く。生命の基本仕様。それは女である。その時の太ももの間をのぞき見ることが出来たら、そこには割れ目があるのだ。この後、女の子であれば、割れ目は立派な生殖器となり、膣、子宮、卵管、卵巣を作り出す。また、腎臓に伸びる尿道が開口する。
しかし、男の子ならば、その割れ目を閉じ合わせることになるのだ。睾丸を包む陰嚢を持ち上げてみると、肛門から上に向かって一筋の縫い跡がある。それは陰嚢の袋の真ん中を通過してペニスの付け根に帆を張り、ペニスの裏側までまっすぐに続いている。俗にこれを“蟻の門渡り(とわたり)”と言うらしい。この筋こそが、女の子であった割れ目の痕跡なのだ。そして、女性の身体を作り変え、小細工を行い、尿の通り道が、精液の通り道を借用することになったというのだ。

男性は、基本仕様である女性を作り変えて出来上がったものである。
女性の身体にはすべてのものが備わっており、男性の身体は取捨選択しかつ改変しものにすぎない。アダムがイブを作ったのではない。イブがアダムを作ったのである。

地球が誕生した46億年前。そこから最初の生命が発生するまでにおよそ10億年が経過した。そして生命が現れてからさらに10億年、この間、生物は単性で、すべてがメスだった。
メスたちは、オスの手を全く借りることなく、子供を作ることができた。母は自分にそっくりの美しい娘を産み、やがてその娘は成長すると女の子を産む。生命は上から下へまっすぐ伸びる縦糸のごとく、女性だけによって紡がれていた。

しかし、生命が誕生して10億年、地球環境に大きな転機が訪れた。多様性と変化が求められ、メスたちはこのとき初めてオスを必要とすることになったのだ。メスは強くて太い縦糸であり、オスは、そのメスの系譜を時々橋渡しする、細い横糸に過ぎない。情報を交換して変化をもたらす。その変化が、変遷する環境を生き抜く上で有用となるのだ。

ママの遺伝子を別の娘のところへと運ぶ役割を果たす「運び屋」として、オスが作り出された。それまで基本仕様だったメスの身体を作り変えることでオスが産み出された。オスの身体の仕組みには急造ゆえの不整合や不具合が残り、メスの身体に比べその安定性がやや低いものとなったことはやむをえないことだった。寿命が短く、様々な病気にかかりやすく、精神的・身体的ストレスにも脆弱なものとなった。それでもオスはけなげにも自らに課せられた役割を果たすために、世界のあらゆるところへでかけて行った。

そして、このオスのY染色体の旅路から、アフリカで人類が発生してからの経路が研究されているのだ。そこでわかる日本がいかに多民族国家かなのか、という話は、長くなるので次回にしよう。

まぁつまり、男はそういう宿命を背負いながら、旅をしていると言う訳だ。男は女のために奉仕してきたという長い長い歴史があるのだ。

アリマキという虫は、メスだけで命は紡いできたが、秋口にだけオスを産む。メスの遺伝子を交換するために。それが長い冬を越すための必要な営みなのだ。そして、オスは役目を終えて冬が来る前に死ぬ。

しかし、あるときメスが気づいた。遺伝子を運び終わったオスにもまだ使い道があることを。巣を作る。卵を守る。資材を運ぶ。食糧を調達する。メスの代わりをしてメスに自由時間を与える。男たちは、薪や食糧を求めて野外に出た。そしてそれを持ち帰って女たちを喜ばせた。そして、あるとき、薪も食料も、女たちの知らない場所に隠しておくことを知った。余剰の起源である。モノは、蓄積、交換され、貸し借りされ、余剰をめぐって略奪や闘争が起きた。そして、余剰を支配する者が、世界を支配するものとなった。

この世の中、男が威張っているように見えるけれども、ホントのところは、女に男は奉仕しているのかもしれない。男が威張っているのなんて、所詮は空威張りであり、単なる縄張り争いみたいなもので、なんの役にもたってやしない。面々と続く女の縦糸こそが、生物の歴史なのである。

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