「ラストドリーム」志水辰夫

それで、シミタツ節とも言われる知る人ぞ知る志水辰夫である。
最近、なぜかちょっとブームになっているのか、本屋で文庫本が
平積みされていることもあるから、見かけた方もいるかもしれない。
久しぶりに志水辰夫を読んだ。「ラストドリーム」(新潮文庫)。

僕が彼の本を読み漁ったのは、10年以上もまえかなぁ~。
僕は本来、川上弘美とか吉本ばななとか小川洋子とか田口ランディとか
なぜかわりと女性作家が好きなのである。
なんだか面白くてよく読むのだ。桐野夏生なんていう男らしい女性作家
も好きだけど。村上春樹もよく読むが、彼はどちらかというと中性的な
作家だと思う。たぶん、物語性よりも些細な描写のデティールが好き
なのだろう。

それに比べて、志水辰夫はまさに男性的な作家である。
男の美学を文体に刻み込んだ彼ほど男らしい作家はいないと僕は
思っている。ハードボイルド小説、冒険小説、男のロマン、あふれる
リリシズム、果てなく彷徨う男たちの旅と冒険、そして権力への反発と
叙情的な男の真情。そして、彼の世界には、とっても強く母性的で美しい
ヒロインが登場する。男たちはとても叶わないような強い女性たちだ。
まさに男が描く都合のよい女性像とも呼べるほど、その芯の強い美しさ
に、いつでも男は慰められ、悔恨し、失った過去を取り戻そうとしたり
するのだ。

この「ラストドリーム」もまた、そういう失われた過去を取り戻そう
とするかのように、悔恨のなか、死の間際、一緒に寄り添うように
彼女と金沢の冬の海で暮らす。

「きれいだよ」
「もっときれいなときだってあったでしょ」
「ごめんな。なぜそのときいってやらなかったんだろう」
「あなたって、いつでも遅すぎるんだから」

仕事に追われ、妻が一番欲しかった子供を死産させてしまった悔いと
わだかまりをこの夫婦は一生抱えて生きてきた。いつも遅すぎたのだ。
気づくのに・・・。

登場人物の女性が男の身勝手さを愚痴る。

「順調にいってるときは、おれが、おれがで、人のことばに傾ける耳を
持たないんです。都合がわるくなったり、落ち込んだりすると、とたんに
逃げるところ、隠れるところを探しはじめるんですよね。それが男の人の
場合、たいてい女なんです。女にしてみたらたまったもんじゃありません。」

男もまた女の現実性を愚痴る。

「女なんてのはな、いつでも現実の、身の回りのものしか眼に入らない
動物なんだ。男がいまここにないものしか見ねえ動物だとしたら、女は
いまここにあるものしか見えねえ生きものよ。本能的に見ないんだ。」

そして、彼が描く自然描写が叙情的で美しいのだ。とくに北国や雪を
描くのがうまい。男はなぜか北へと向かうのだ。

(ら) 
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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