「あの日、欲望の大地で」ギジェルモ・アリアガ

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「バベル」「21グラム」の脚本家・ギジェルモ・アリアガの初監督作品は、周到に準備された残酷な物語だった。荒涼な乾いた大地と暗い海と絶壁が迫る曇天と雨の町で、人間の罪とと家族の物語を描き出した。

誰もが見てわかるように、これは傷跡をめぐる映画である。唐突にスカートをめくって、太ももにつける傷、シャーリーズ・セロンの自傷行為から始まって、キム・ベイシンガーの胸の傷跡、そして若い二人(ジェイニファー・ローレンスとダイー・ビノ)が刻印する火傷の傷跡。そしてその傷跡を見て、娘(テッサ・イア)は、「私のおでこにもあるわよ」と告げる。奇妙な傷跡の連鎖。つまり、傷を共有出来るかどうかが、関係の絆というものなのかもしれないとこの映画は告げる。トレーラーハウスで、キムベイシンガーの浮気相手(ヨアキム・デ・アルメイダ)が優しく傷跡にキスをするように、シャーリーズ・セロンが背負った心の深い傷=罪をどう克服するかが、この映画の中心テーマとなっている。娘のおでこの傷跡の意味を知らない母親。それでも父と母の傷跡はつながっていることを娘は知った。そう、傷は過ちを忘れないためにある。入院中の彼の傷を、今度は彼女が癒す番なのかもしれない。そして、知らない娘の傷跡の空白も彼女はこれから埋めていくしかない。

また、この映画は火と水の映画でもある。原題にもなっているように「The Burning Plain=燃える大地」から映画は始まる。荒れた大地で燃えるトレーラーハウスの炎は、マリアナの心の炎=傷そのものとなる。それは同時に、トレーラーーハウスで繰り広げられる性の欲望の炎でもある。その炎で負った傷跡を、荒れる波と絶壁の断崖がある町で、彼女は鎮めようとしているのか?しかし、彼女にとってセックスは、自傷行為でしかない。窓から裸体を子供たちに晒すことでも、彼女の心の闇が見えてくる。シャーリーズ・セロンがレストランで働く町の天気は、いつも暗い曇天か雨ばかりだ。光はない。そして、ずぶ濡れになった彼女のもとを、メキシコの荒野から男が訪ねて来る。彼女は濡れたままだ。しかし、雨の暗い街から彼女は、再びメキシコの荒野へと戻っていくのだ。娘の導きのもとに。人間の業ともいうべき燃えさかる性の炎と自傷行為のように雨に濡れた惨めな性。対極の世界の中で彷徨い、彼女は娘に許しを乞うのだ。

ギジェル・アリアガの脚本は、緻密に計算されている。最初、唐突に挿入されていくエピソードの羅列に観客は戸惑う。人物関係がつかめないのだ。この男は誰なのか?この家族はどうつながってくるのか?分らないまま、少しずつ物語の時間がつかめてくる。そして、後半つながった物語は、マリアナの深い傷が一挙に露わとなり、観客は彼女に感情移入できる。自堕落な女の性も、トレーラーハウスで繰り広げられた性の欲望も、一点に凝縮され、この女の深い哀しみと傷に共感していく。このへんの脚本の進行は、とても巧みだ。だから久々に再会した病院で倒れている無言の男に罪を語りかける彼女の告白はとてもせつない。

僕には、何度か出てくる鳥が空を飛ぶシ-ンが印象的だった。鳥を見るとパチンコで撃ち落としていた少年の歪んだ欲望は、大空を翔ける鳥たちの美しさの前では、とても無力なものなのかもしれない。大地で燃えさかる炎の前では、誰もが無力であるように。
そうだ!鳥を撃ち落していた少年は、飛行機に乗って空を飛んでいたではないか。農薬を散布して落ちてしまったけれど。少年はただただ鳥になりたかったのかもしれない。人間の愚かな欲望から自由になれる日を夢見て。

また、娘が現れた後に、レストランで彼女は男に「私を連れて今すぐどこか知らない街へ」と誘う場面も人間の弱さを表していていい。逃げたいのだ。どこまでも知らない街へ。そんな弱い気持ちを表現しているのもうまい。


荒涼たる大地と哀しみに満ちた人間の欲望と罪に、なんだか涙が出てきてしまった。シャーリーズ・セロンは、投げやりな性と哀しみを好演。キム・ベイシンガーのシワの深さもなんだか切ない。

ラストで、光の中、父の病室に「一緒に入る?」とシャーリーズ・セロンに語りかける娘(テッサ・イア)の透き眼差しと笑顔に救われる。


原題:The Burning Plain
ギジェルモ・アリアガ監督・脚本
出演:シャーリーズ・セロン、キム・ベイシンガー、ジェニファー・ローレンス、ジョン・コーベット、ヨアキム・デ・アルメイダ、ダニー・ピノ、ホセ・マリア・ヤスピク、J・D・パルド、ブレット・カレン、テッサ・イア

☆☆☆☆☆5

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『あの日、欲望の大地で』を観た感想です。

70点(脚本・演出・撮影がうまい) 少々暗めのストーリーを、現在と過去を交錯させながら描き、徐々に登場人物たちの関係を観客に明らかにし、2時間しっかりと観客を飽きさせない作品です。 しかし、「結局のところ、何てことないストーリーだったなー。」と感じてしまっ?...

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