懺悔

D8F2B2F918-thumbnail2.jpg

グルジア映画である。グルジア映画というと幻想的な映像詩人「ざくろの色」のセルゲイ・パラジャーノフがいたし、そして「ピロスマニ」という民衆画家を描いた映画も思い出す。この地域には独自の地域的文化的宗教的な土壌がある。ロシアともヨーロッパとも違う独自の地域性がある。民族的にも複雑な場所だ。

そしてこの「懺悔」は、1984年、ソビエト崩壊前夜に、厳格な検閲下のあるグルジアで製作された。スターリンの大粛清を想起させる内容で、全世界を注目させた伝説を映画でもあるという。日本では20数年ぶりにやっと去年公開された。

ヴァルラム・アラヴィゼという市長の独裁者が登場する。テンギス・アブラゼ監督によるとその名は「誰でもない」というグルジア語からつけられた姓だという。誰でもなりうるし、誰でもない独裁者は、道化者のようである。ちょび髭と小さな眼鏡。大きな声。ヒットラー、ムッソリーニ、スターリンなどを想起させる。

市長就任演説シーンがまず可笑しい。消火栓がなぜか破裂し、市長が演説するバルコニーは水びだし。その雨のなかで秘書がタイプライターを打ちつづけ、市長の偶像が空を飛び、奇妙な演説が繰り広げられる。さらに、コーラスの手下をひきつれて、オペラ歌唱まで披露し、窓から天使の羽根を付けて飛び降りるのだ。なんと戯画化された独裁者だろう。天使の羽を持ち空を飛ぶ男。絵画や音楽などの芸術を愛する権力者。

そんな独裁者に不当逮捕され拘留される絵描きの男は、キリストのように吊るされる。その男が強制収容所に連れ去られ、丸太の隠喩とともに母と娘が丸太の父の名前を探すシーンが、なんとも美しい。曇った空の下の丸太の山、そして水たまり。線路を越えて水たまりに入りながら、必死で父の名前が書いてある丸太を探す母子。なんとも哀しくせつないシーンだ。

何度も掘り返される独裁者の墓、庭におかれた死体、夢の中で現れる車で歌い続ける姿や、追いかけられて土の中から顔を出して隠れる絵描き夫婦、甲冑姿で拘束しにやってくる男たち、裁判の滑稽さ、ルービックキューブをいじる検事。独裁者の死体の前で踊る嫁など、もうシュールで変なシーンがいっぱい。ユーモラスであり、滑稽でもあり、幻想的でもあり、カーニバル的でもある。

そう、そもそもこの物語そのものが、冒頭登場する教会のケーキを作る女の妄想であるかのようなのだ。独裁者を墓で眠らせることは許せないと死体を運びだした女の回想という形式で彼の時代を振り返りながら、さらにファーストシーンとラストシーンは、さらなる女の妄想へと物語を包む。

幻想の力で権力と市民の関係を描きつつ、そこには力強い人間の姿がある。権力も宗教も粛清の暴力も性も芸術も親子の葛藤も。この混沌とした世界こそが、私たちの世界なのだ。道はどこへと通じる道なのか?

☆☆☆☆☆☆6

(サ)
スポンサーサイト

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 社会派 ☆☆☆☆☆☆6

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
135位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
56位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター