「まほろ駅前多田便利軒」三浦しをん

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「愛情というものは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手からもらうということだ」
                                         (文春文庫P196)

「やり直せることなんかほとんどない」
「いくら期待しても、おまえの親が、おまえが望む形で愛してくれることはないだろう」
「だけど、まだだれかを愛するチャンスはある。与えらなったものを、今度はちゃんと望む形で、おまえは新しく誰かに与えることができるんだ。そのチャンスは残されてる」  (P163)

「失ったものが完全に戻ってくることはなく、得たと思った瞬間に記憶になってしまうのだとしても。
今度こそ多田ははっきりと言うことができる。
幸福は再生する、と。
形を変え、さまざまな姿で、それを求める人たちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。」
                                          (P345)

三浦しをんの文章は巧い。直木賞を取ったこの小説は、先日読んだ『私が語りはじめた彼は』とはかなり雰囲気が違った小説だ。あの小説では、男と女の複雑な心理を<真実は闇>というような謎めいた語り口で描かれていたのが、この小説では、テレビ連続ドラマのように視覚的に活動的に描かれている。まほろ町の便利屋で働く多田とかつての同級生で変わり者の行天の2人の男の姿を生き生きとリアルに活写されているのだ。

彼女の小説は、引用したように、とにかく文章がうまい。しかも過去に家族を失った傷を持つ中年男の悲哀をなんとも見事に描いているのだ。若い女性がどうしてこんな世界を描けるのだろう?その中年男の便利屋のところに、転がりこんで来る行天という男もまた奇妙で面白い。子供を人工授精で、女とそのパートナーのために作ったという変な経歴の持ち主。子供時代に親から虐待を受けて、高校では一言も喋らず、事故で子指を切断した男。この男も心に空洞を抱えている。そんな変な中年オヤジ二人が、便利屋稼業をしながら、まほろ町のいろんな人たちと関わりあっていく。まぁ、町の人情事件簿のような感じで、ヤクザまがいの男と関わりを持ちつつ、ドタバタと様々な事件が展開する。

描かれているのは・・・過去はやり直せない。一度切り離されてしまった小指は元には戻らない。手に入れたと思った現在のものは、すぐ過去の記憶になってしまう。それでも、幸福は形を変えてやってくる。望みさえすれば。可能性はいくらでも残されているんだ。新しく何度でも・・・という前向きなメッセージだ。

そんな世界を面白おかしく、人情事件簿的に、不器用な中年男たちのテレビドラマのように描いている。ぜひとも映像化してもらいたい小説だ。配役を想像してみるのも楽しいかもしれない。

(ま)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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