「脳内ニューヨーク」チャーリー・カウフマン

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ぐるぐるぐるぐる堂々巡り。頭なのかでまわるよまわる。あてどもない妄想やら畏れやら死への不安やら孤独や寂しさや愛やら迷いやらなにやらかにやらと、人の頭の中はぐるぐるめぐる。

これは、痛快さも爆発もサスペンスもカタルシスも感動も涙も何もない。停滞と混乱の映画だ。哲学的な知的な映画ともいえるが、なんだこれは?面白くない!と思う人も多いのではないか。なんだかわからないからだ。何を伝えたいのか?何を描きたかったのか?わからないのだ。そのわからなさこそが、この映画の楽しみなのだが…。

いや、これはそんな混乱そのものが、人間だよと伝えている映画でもある。そこには人間の深みがあるというよりは、ただただ混乱と寂しさと孤独と死への畏れがあるのだ。

あの快作「マルコビッチの穴」で驚くべき奇妙な脳への旅で脚本家デビューし、スパイク・ジョーンズと続けて組んで「アダプテーション」では書けない脚本家の混乱をコミカルに描き、ミシェル・ゴンドリーとは脳の記憶と恋の物語をロマンチックに描いて見せた脚本家チャーリー・カウフマンの初監督作品。

彼がいつも描いてきたのは、現実と虚構が入り乱れる脳と認識と現実の世界だ。そしてそれはモノを創造し、虚構を作り出す芸術家の混乱でもあった。恋もまた脳が物語を作りだすという意味では、同じ世界だ。人は現実を脳で認識する。脳で認識した世界が現実であるが、それは妄想なのか虚構なのか。現実そのものと認識した世界は現実と微妙に食い違う。他人の脳の中や認識は別だったりもするのだから。だから人の気持ちはわからない。

この映画は劇作家が自分の人生を芝居にしてしまおうという話だ。巨大な自意識。拡大する自我。そして自分を役者が演じているうちに、虚構が現実となり、現実を追い越していく。自分をずっと観察してきたという奇妙な男も登場し、自我は分裂していくかのようだ。かくして現実と虚構は入り交り、自分の存在自体が虚構化していく。自分は誰でもあり、誰でもない誰かとなる。そして、ラストでは演出家であることをやめて、役者として虚構の中に入り込んでしまう。だから最後は、虚構なのか現実なのか、もはや観客にはわからない。いやいや、そもそも子供のお尻から緑のウンチが出てきたり、現実そのものが虚構めいていたではないか。妻のミニチュアアートの展覧会が、拡大鏡のメガネをかけて、作品を観るのも象徴的だ。極小の世界から見える世界。舞台としての虚構のニューヨークから見えるニューヨーク。

自分の人生を舞台化しようと考えてみたら、自分をどう客観化するだろう?自分が思い描いた他者は、いつしか自分の思惑を超えて、別の人格を持ち、自分もまた別の人間になるような気がする。いつだって、自分を完璧に思い描くことなんてできやしない。描いた瞬間から、裏切られ、自分はいったい何者だろう?とわからなくなる。この映画を作ったチャーリー・カウフマンだって、なにもわかってやしないのだ。ただただ、虚構の世界と死への畏れと不安ばかりがあるのだ。

そもそもこの原題「Synecdoche」とは、「全体をあらわす個/個が全体をあらわしていること/特殊にして全体」といった意味らしい。部分と全体。セットとリアル。虚構と現実。ラストのあの廃墟は、虚構なのか?現実なのか?恋人のヘイゼルの燃えている家は何の隠喩なのか?ニューヨークといえば、あの9.11とも関係あるのか?
部分と全体の入れ子構造は、虚構と現実との関係でもあるし、生と死の入れ子構造であるのかもしれない。この世界には至る所に<死>が見え隠れしていたりするのだ。死への畏れの中で、いかにこの訳のわからない自分のことを理解してくれる存在に出会えるのか?そんな通じ合える心の愛しさを大切に思った。

「その土曜日、7時58分」「パイレーツ・ロック」とフィリップ・シーモア・ホフマンの存在感がこのところ際立つ。もう一度観てみたい映画だ。

原題:Synecdoche, New York
監督・脚本:チャーリー・カウフマン
製作:スパイク・ジョーンズ、アンソニー・ブレグマン、シドニー・キンメル、チャーリー・カウフマン
撮影:ブルース・トール、レイ・アンジェリク、フレデリック・エルムズ
美術:マーク・フリードバーグ
音楽:ジョン・ブライオン
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、サマンサ・モートン、ミシェル・ウィリアムズ、キャサリン・キーナー、エミリー・ワトソン
製作国:2008年アメリカ映画

☆☆☆☆4
(ノ)
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ジャンル : 映画

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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