「千年の祈り」ウェイン・ワン

祈り

2010年、最初に観た映画です。とても静かで地味で狭い世界の映画。だけど普遍的なものも感じる人の関係と距離についての映画。関係が近ければ近いほど、伝えられないことがある。

「スモーク」のウェイン・ワン監督。あの映画と同じく、描かれる場所がとても限定されている。ほとんどの場面が娘の部屋と公園。父が娘のために作ってあげる夕食は、いつもボリュームたっぷりで、娘のご飯にはいつも山盛りのおかずが盛られている。娘は、しかたなく少しづつ食べる。

それから公園では、娘のことを心配してアメリカにやってきた片言の英語しか話せない中国人の男(父)が、同じように英語が片言のイラン人の女性(母)と出会う。片言の英語で意志を通わせようとする二人。文化大革命やイラン革命など激動の祖国を持った二人の孤独な外国人が、アメリカの公園でひっそりと心を通わせる。

この映画は、この2つの場面が対照的に何度も繰り返される。

公園での二人のように、言葉が通じない二人が一生懸命に心を通わせようとする場面と、同じ中国語で話す父と娘が、心を通わせられない場面とが全く対照的に描き出される。言葉がわからないからこそ、伝え合おうとする意志が働き、肉親で近くにいればいるほど、伝え合おうとしなかったりするのがなんとも皮肉だ。

誰にでもあるだろう。近くにいるからこそ、わかってくれるはずだ、どうしてわかってくれないんだ?という甘えがある。甘えがあるからコミュニケーションの努力をおろそかにする。

近くにいる肉親だからこそ、プライドや意地やいろんな思いがあって話せないことがある。この父の娘のように。中国の文化大革命や私たちの計り知れない国の変化とともに翻弄された個人の哀しい過去。どうして、そんなことを秘密にしていたのかは、正直理解できない。でも、大小の差はあれ、近くにいる肉親だからこそ、話さないというのは誰にでも経験がある。そして、話さないことがこの映画のように誤解を生み、娘の生き方さえにも影響を与えてしまう。近くにいるからこそ、ちょっとした行き違いや誤解は、憎しみにまで発展したりもする。

『先年の祈り』はちょっと大げさなタイトルって感じがするけど、中国の故事からきている。


「中国で、『修百世可同舟』といいます」誰かと同じ舟で川をわたるためには、三百年祈らなくてはならない。〈たがいが会って話すには―――長い年月の深い祈りが必ずあったんです。どんな関係にも理由がある、それがことわざの意味です。愛する人と枕をともにするには、そうしたいと祈って三千年かかる。父と娘なら、おそらく千年でしょう。人間は偶然に父と娘になるんじゃない。〉(原作「千年の祈り」)


誰もがお互いに別々の個人だ。肉親であれ、夫婦であれ、別のことを考えている他人だ。その前提を私たちはよく忘れてしまう。近すぎて忘れてしまうのだ。だからこそ、近くにいても伝えようとする努力が必要なのだ。そして、別の個々人である関係が一緒に舟に乗るためには、中国の故事のように「祈り」のような伝えたい・伝えようとする思いが必要なのかもしれない。親子でも恋人でも夫婦でも。
そんな父と娘の距離と関係について、静かに考えさせてくれる映画だった。


製作年 : 2008年
製作国 : アメリカ
監督 : ウェイン・ワン
原作・脚本 : イーユン・リー
出演 : ヘンリー・オー 、 フェイ・ユー 、 ヴィダ・ガレマニ 、 パシャ・リチニコフ

☆☆☆☆4
(セ)

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テーマ : アメリカ映画
ジャンル : 映画

tag : 家族

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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