「第四の手」ジョン・アーヴィング

お気に入りのジョン・アーヴィングの『第四の手』読了。またしても不具者の話だ。『オウエンのための祈り』のオウエンは体が小さく、奇妙な声の無垢なる存在だったが、この『第四の手』の主人公・パトリックは、実に女にだらしのない、いい加減な色男である。全く馬鹿な男なのだ。その色男のテレビレポーターがインドで腕をライオンに食われるところを全世界に生中継して有名になってしまった。『サーカスの息子』と同じようにインドの混沌(カオス)の中で、生々しく腕を食われる衝撃的な映像が全世界に流れ、「ライオン男」「災害男」として有名になる。

前半は怒涛のアーヴィング的饒舌な物語世界が次々と展開される。馬鹿なパトリックの女性遍歴、女にいつも言い寄られて断れない男のお気楽人生。さらに手の移植手術をするゼイジャック博士の物語。そして、夫を事故で失い、その夫の手をパトリックの移植に提供しようと申し出るドリス・クラウセンの物語。色男パトリックは、日本旅行で出会ったフェミニスト批評家の女性に「人生の無為さ」を指摘され、その後、様々なタイプの女性と付き合いながら、少しずつ大切な自分の人生を見つけていく。

後半のドリスと過ごす湖畔の描写が美しく、慈愛に満ちている。前半の軽業師的な荒唐無稽な物語から、後半は静かに初めて愛した女性ドリスと息子と過ごすパトリックの心の変化がジワッと伝わってくる。

不幸の蜜を吸い続けるテレビ業界のセンセーショナルな話題作りの中に身を置くテレビアンカーという仕事そのものに、虚飾や誇張にまみれた世界が示される。ジョン・F・ケネディ・ジュニアの飛行機事故死に群がるハイエナのようなマスコミ。女性からの強烈な罵倒は印象的だ。悲しみを売り物にして、大切な物を隠してしまう虚飾の世界のなかで辟易していく彼の姿が印象的に描かれる。

アーヴィングがいつも描くように世界は不幸と突然の災難に満ちている。壁の掛けられた写真の跡に「喪失と不在」を印象的に描いたのは『未亡人の一年』だったが、ここでも夫の不在を抱えるドリスの哀しみが、壁のポスターの跡で表現される。彼の世界は、悲しみと喪失が基調低音なのだ。

そしてそれを感じながらパトリックは、同じように手の喪失=不在によって、今度は新たな「第四の手」を手に入れる。アーヴィングが描く圧倒的な不幸と突然の災難は、その「喪失と不在」の哀しみの果てで、ささやかな「救い=希望」を手に入れ、それこそを描くために、必要なものなのかもしれない。

(た)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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