「オーシャンズ」

「WATARIDORI」は鳥とともにカメラが飛び、鳥の飛行を記録し続けた映像が凄かった。そのジャック・ベランがさらなる映像技術を駆使して海の生き物を記録した海洋ドキュメンタリー。その苦労の甲斐あって、映像は圧倒的だ。イワシの群れに空から次々とダイブする鳥たち、夜の海で海底をうごめく奇妙な生き物たち、大量に移動するクモガニ、佐渡のコブダイや海を覆う神秘的なクラゲや、布切れを広げて泳いでいるような優雅なタコなど、海の世界の生き物たちは多様性に溢れていて面白い。
跳ぶように泳ぐイルカに並走し、小型ヘリコプターカメラで鳥の目線で撮影し、海の底にまでレールを敷き、あらゆる技術を駆使して海の生き物たちを撮影している映像は見応えがある。
何よりもこの映画の良さは、生きものたちの迫力ある捕食場面を数多く捉えているところだ。海の底で岩のような深海魚が小さな魚を一瞬のうちにパクッを食らい、タコは魚を丸飲みし、海の底ではシャコと蟹が壮絶な戦いを繰り広げ、アザラシの子供をシャチが襲い、海ガメの赤ちゃんは鳥たちに狙われる。みんな生きるために必死なのだ。群れをなし、知恵を絞り、子孫を残そうと、生きるためにだけに、ただ生きている。その自然の厳しさと循環と豊かさ。
ところか映画は後半、失速する。映像が意図的になるのだ。人間の罪を告発するために、クジラやイルカが漁で殺されるシーンが残酷に描かれ、サメのヒレだけを切り落として海に捨てられるシーンが挿入される。ちなみにこのサメは、再現するためにロボットを使ったとか…。映像は急に力を失い、意図的になり、説教臭くなる。映像はメッセージを伝えるための道具となって編集される。
海の圧倒的な多様性とその生き物たちの存在感に、我々は、ただたじろぐだけで十分なのではないか?食う食われることは善悪ではない。人間が犯していた罪は言うまでもないことだが、意図的に編集された映像に力はない。ただただ、海の生き物の凄さを見せて欲しかった。
それにしても日本語吹き替え版でしか上映しないのはなぜなのか?字幕版があってもいいのではないか?エンディングの挿入歌とともに、後半からゲンナリしてしてしまった。
原題:Oceans
監督:ジャック・ペラン、ジャック・クルーゾー
製作総指揮:ジェイク・エバーツ
製作:ジャック・ペラン、ニコラス・モベルニー
脚本:ジャック・ペラン、ジャック・クルーゾー、フランソワ・サラノ、ステファン・デュラン、ロラン・ドゥバ
音楽:ブリュノ・クーレ
編集:バンサン・シュミット、カトリーヌ・モシャン
日本語吹替え版ナレーション:宮沢りえ
製作国:2009年フランス映画
☆☆2
(オ)
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tag : ドキュメンタリー