「アバンチュールはパリで」ホン・サンス

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これは、タイトルからイメージされるような洒落た恋映画ではない。気分の良くなるような恋のアバンチュールを期待して観ても、裏切られるだけである。感動も心ときめくロマンスもない。それでも、僕はニンマリしてしまう映画だった。

実は、気性が激しく、情念がドロドロと深い韓国映画がわりと苦手だ。時に物語があざとく、時に執念深く、時にとことん暗く、心の傷や恨みや感情をどん底まで突き詰めて描くイメージがある韓国映画。最近秀作も多いと聞く。食わず嫌いもいかんなぁ~などと思いながらも、なかなか足が向かない。なんかその激しさについていけなくて、疲れてしまうのだ。鬼才、キム・ギドクもちょっと見たんだけど、凄い深いところまでいって、激しく暗く圧倒されるんだけど、どうもついていけない感じがしてしまう。

それで韓国のゴダールとも、ロメールとも言われるホン・サンスを観てみた。タイトルや予告からしてほかの韓国映画と違って軽そうなので…。

なるほどなるほど、なかなか人を食ったような映画で面白かった。ちょっと韓国映画らしくない冷めた作りだ。


ファーストシーンから人を食っている。麻薬で捕まりそうだからパリへ逃亡したと簡単に事情が説明される。まるでドラマが始まることを最初から目的としていない。どうでもいいようなテロップで、パリへ来た事情が説明され、さえない中年男のキム・ヨンホが空港の出口でタバコを吸っている。そこへ男がやってきて、火を貸してくれと言う。何か物語が始まると思いきや、「パリは気をつけろ」とだけ言っていなくなる。なんだこれ?って感じのプロローグで、まずハハハ。主人公はやたらと手持ち無沙汰のように、タバコを吸う。まさに何もやることがない手持ち無沙汰なのだ。日記のように淡々としたモノローグでパリでのささやかな日常が語られていく。いくら待ってもドラマが始まらない…。

ようやく昔の恋人と再会するあたりから、徐々にドラマらしきものが始まっていくのだが、観客は「なぜこの男が主人公なのか?」と、ちっとも理解できない。感情移入できぬまま時間が過ぎていく。夜10時になるまで明るいパリ。夏は昼なのか夜なのかわからなくなる…という台詞にもあるように、メリハリのないパリの生活。画家なのにちっとも絵を描こうとしないし、韓国の離れた妻とメソメソと夜に電話で泣き言を言う。そうかと思うと、元恋人の誘いに中途半端に応じながらも、かえって傷つけるだけ。さらに若くてかわいい女の子に、簡単にマイってしまい、恋してしまう。

この映画は男のダメさ加減をとことん冷めた目で描いている。自分勝手で、甘えん坊で、中身がどうこうよりも、かわいい女の子が大好きで、威張ってみたり、優しくて優柔不断だったり、力自慢だったり、説教してみたり、自分を責めてみたり…まぁまぁ、なんだか我ながら男っていう動物がイヤになるほどだ。それを冷めた目線でややコミカルに描いている感じが面白い。女同士がケンカして、間に入って右往左往したり、妻と恋人との間で困ってみたり、怒ってみたり。夢で女の名前をつぶやいてアタフタ…。本当に男は勝手でいい気なものなのだ。それでも、そんな男を女は好きになり、放したくないと、女も必死になるのだ。

そういう冷めた人生訓的な人間関係の見つめ方は、ややロメール的かもしれない。こういうダメな男と、そんなダメ男を好きになってしまう女たちこそ、私たちの人間関係なのだ。私たちのささやかな人生なのだ。恋を謳いあげたり、永遠のを誓ったり、夢のような輝かしい時間を描いたり、感動する家族を描いたり…、そんな映画からはるかに遠く離れて、この映画は存在している。そもそも恋の街・パリが描かれていないではないか?描かれるのは、うだつのあがらぬ冴えない男の姿のみなのである。

夢見がちな恋物語の期待を裏切ることで、人生のどうしようもなさ、関係のどうしようもなさを描いてみせる手腕に、ちょっと唸ってしまった。それにしても、このタイトル、詐欺のような気がしますけどね~。

原題:夜と昼
韓国映画
制作年:2008年
上映時間:144分
公式サイト:bitters.co.jp
配給:ビターズ・エンド
キャスト・スタッフ
監督:ホン・サンス
キャスト:キム・ヨンホ、パク・ウネ、ファン・スジョン、イ・ソンギュン、ソ・ミンジョン、キム・ユジン

☆☆☆☆4
(ア)

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