「母なる証明」ポン・ジュノ

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冒頭、ススキノの原野をうつろな表情で歩いてくる母(キム・ヘジャ)。明らかに不自然な設定。普通じゃない虚ろさ。そして音楽の太鼓の音とともに、静かに女は手を動かし、踊りだす。このファーストシーンでやられてしまった。実にいいのだ。静かに憑かれたように踊りだす女。踊ることが、生き続けるために、必要不可欠で必然とでもいえる身体行為であるということをまざまざと見せ付けてくれた映画だ。それはまさに「祈り」にも似た踊らずにはいられない虚ろな行為なのだ。


そもそもこの映画、予告編を観た段階で敬遠していた。無実の息子のために必死で奔走する母。その熱き母なる思いが、うっとおしく感じてしまったのだ。その激しい感情と強い愛情、そして感動へ結びつくテーマが、そもそもうっとおしいのだ。押し付けがましい愛情ほど、迷惑な話はない。しかも、なりふり構わぬ必死な母の形相に、韓国映画の大袈裟さを感じていた。だから敬遠していたのだ。

しかし、この映画はそんな母なる愛情の押し付けを超えた映画だった。前半でこそ、そんな風に物語は進行する。少し精神的に障害を抱えた息子を溺愛する母。執拗に栄養あるものを食べさせようとする。息子があまり食べずに家を出て行くと、バス停まで追いかけ、立ち小便をする息子のイチモツを平気で覗き込みつつ、栄養スープのようなものを飲ませるシーンに親子関係が見事に凝縮されている。

やがて殺人事件が起き、犯人として捕まった息子(ウォンビン)の罪めぐって、母が奔走する。必死になって…。ここまでは予想通りの展開。問題は後半、様相は一変してくる。

欲望や打算や不運や貧困や罪…そういったことから起因する不幸そのもの、闇そのものを映画は描き出す。誰がいい悪いでは勿論ない。特定の何かを描いているのですらない。それぞれがそれぞれの思いの果てで、たどり着く不幸、バラバラな現実。真相は母の思いのなかで封印され、焼き棄てられるが、その黒々とした炎はいつまでも心のなかでくすぶり続けている。真実に辿りつかないそれぞれの現実。それはまるで、真実などないかのように。あるのは、それぞれの思いの果てにある現実だけ。

母が何度も、過去のトラウマや忘れたい忌まわしい記憶を忘れさせてくれるツボの話をする。そのツボに針を打ちさえすれば、そんないやな記憶を忘れられるとでもいうように。それは息子をかつて殺そうとした自分の忌まわしい過去にも重なる。そして今回もまた母はやりきれない現実を抱えることになる。ラストのバスの中で、母はスカートを巻くりあげ、太ももをあらわにして、自ら針を打ち、バスの中での狂乱の踊りの輪の中に混ざっていく。

このファーストシーンとラストシーンの踊りこそ、この映画の全てなのだ。踊らずには入られない闇。踊ってやり過ごすことしか出来ない人間の不幸や不運やバラバラの現実。全てが安易に解決するわけではないこの現実において、それぞれがそれぞれの闇を飲み込みながら、やり過ごし、生きていくしかないのだ。踊りを踊りながら…。秀逸な映画です。

製作年 : 2009年
製作国 : 韓国
監督・原案・脚本 : ポン・ジュノ
出演 : キム・ヘジャ 、 ウォンビン 、 チン・グ 、 ユン・ジェムン 、 チョン・ミソン

☆☆☆☆☆5
(ハ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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