「アンナと過ごした4日間」 イエジー・スコリモフスキ

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台詞がほとんどない。男が女を建物の影から覗いているシーンから始まる。そして男は斧を購入する。さらに暗い部屋では、手のようなものを焼却炉で燃やす。男は殺人事件の犯人なのかと観客に思わせて、カメラは静かにサスペンス色を漂わせながら、男を身守り続ける。とても計算されつくした映像と音で多くの台詞を省略し、時間軸を巧みに操作しつつ、暗い東欧の村での物語を描いた。

イエジー・スコリモフスキ監督、日本ではあまりなじみがない監督だが、アンジェイ・ワイダ、ロマン・ポランスキー、クシシュトフ・キシェロフスキと共に、ポーランド映画界をけん引してきた監督らしい。17年ぶりに故国ポーランドで撮った“幻の巨匠”71歳の監督の新作。

とにかく暗い。この東欧の映画独特の暗さは、いったいなんなんだろう。しかも古い戦争の時代を描いたわけでもなく、現代のどこかの寒村なのだ。いや、これはある意味、時代を超えた作品なのかもしれない。女をひたすら見つめる男。不器用に、多くの誤解をされても、静かに女をも守り続ける男。しかし、その視線に欲望はあるのだ。愛と欲望の視線。男はいつの時代でも女を見つめ続ける存在なのだ。

冒頭、男が川で釣りをしていると、巨大な牛が川を流れるシーンがある。とても異様な作為的なシーンだ。そのあと、強姦場面を男は目撃する。時間軸は、巧みに前後し、観客を混乱させつつ、説明を極力は省きながら物語は進行していく。男に寄り添いながら。男は、女を観察し続ける。数々の映画で描き続けられてきた男の欲望の視線だ。次第に男は大胆になり、女の部屋に侵入する。シャツの取れそうなボタンを縫いつけたり、男の行動は変態的ながら、かろうじて一線を超えない。露わになった胸に手を伸ばすが触りはしない。観客は男が見つからないか冷や冷やしながら、男を見守ることになる。女の爪に赤いペディキュアを塗るシーンがある。その赤い爪は、強姦シーンで印象的に使われていて、男の欲望が垣間見える。彼女の誕生日には、退職金をはたいてダイヤの指輪を買いこみ、部屋に侵入。酒を飲んで寝込んでしまい、見つかりそうになってベッドに下に隠れて、仕事に行くためにストッキングを履く女の足を見つめる。女の足はエロティックだ。

この映画で、男に見られる女は決して美人という訳でもない。どこにでもいそうな看護師なのだ。映像は官能的に描かない。そのあたりが、単なる男の欲望の映画から逃れている。男の唯一の肉親である老婆の介護、そして死が男の孤独を浮き上がらせる。さらに仕事先の病院から指輪窃盗疑惑をかけられたり、男は目撃しただけなのに強姦事件の犯人にされ、服役。囚人仲間に犯され、男の孤独と不運と不幸が淡々と描かれるのだ。

雪に閉ざされた陰鬱な村、曇り空の村のなかを歩く男の俯瞰。曇り空から光が射し、変化する場面がある。写真の場面だ。映画は、否定も肯定もせず、男をひたすら静かに描き続ける。不器用で社会や女とうまく関わることのできない男を。ただ見つめ続けることしか出来ない男を。この一方的で勝手な視線は、愛なのだろうか?この独りよがりな不器用な男の愛は、当然ながら女には届かない。女は裁判で、男に「愛」だと打ち明けられ、戸惑う。そして男に指輪を返しに行く。部屋で見知らぬ指輪を見つけた時の女の表情から、女の孤独も見事に描かれているから、女は男を必要以上に責めたりはしない。静かに、指輪を返し、もう会いに来ないと告げるだけだ。

サイレンの音や犬の泣き声、深夜の突然のヘリコプター音、実に計算されつくした音の演出。そして、映像もまた、余分なカットを積み重ねるのではなく、静かに男の姿を、暗い村や部屋の中で配置する。

暗く陰鬱な映画だ。何もしない変態男にただただ付き合わされる観客は、とてもどんよりした気分になる。感情移入も出来ず、共感もできず、葛藤のドラマもなく、ただただ男に付き合わされる。奇妙な男の行動とそのモノローグに。しかし、映画を観てしばらくすると、ゆっくりと静かに、この寂しい世界の中で生きる一人の男と一人の女の<存在の孤独>が、胸にしみてくる。

原題:Cztery noce z Anna
公開:2009年ポーランド,フランス
製作:イエジー・スコリモフスキ
監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:アルトゥール・ステランコ,キンガ・プレイス
   イエジー・フェドロヴィチ,バルバラ・コウォジェイスカ
脚本:イエジー・スコリモフスキ,エヴァ・ピャスコフスカ
撮影:アダム・シコラ
音楽:ミハウ・ロレンツ

☆☆☆☆4
(ア)
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テーマ : ヨーロッパ映画
ジャンル : 映画

tag : 人生

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アンナと過ごした4日間

公式サイト。原題:4 Nights with Anna / Cztery noce z Anna。イエジー・スコリモフスキー監督、アルトゥール・ステランコ、キンガ・プレイス。本作は日本で起きた現実の事件の三面記事をヒントにしてポーランドのイエジー・スコリモフスキー監督が作ったという。 映画監...

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