「牛の鈴音」

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韓国のドキュメンタリーで300万人もの動員を記録した大ヒット映画だという。「牛の鈴音」症候群という言葉まで生み出し、「この映画を観て泣けない人はいない」とまで言われたそうだ。韓国は急激に高度成長し、韓国人にとっては、この田舎の失われつつある原風景は、人々の心に郷愁としてまだ強く残っているのだろう。

予告編どおりの映画だ。老いぼれ牛と爺さんの物語。牛の平均寿命は15年程度だといわれているが、40年も農耕牛として生きた老牛はまさにお爺さんとともにあった。「私は不幸だよ」と文句と愚痴を言い続けるお婆さんがとてもいい。寡黙で頑固な爺さんと、愚痴をひたすら言い続けるお婆さん、そしてやせ衰えていく牛。泣けると言えば泣ける。彼らの存在自体がとにかく凄い。圧倒される。生きるってこういうことなのかもなぁ…なんてことを考えさせられる。自然とともに、牛とともにただ働き、体を動かし、生きる。余計な選択も欲望もない。あるのは、牛への思いと自然とともにシンプルに生きること。つまり死ぬまで体を動かし働き続けること。息子たちから隠居を進められても、病気になっても、爺さんは働くことをやめようとしない。身体が動き続ける限り、働こうとする。牛とともに。


一方で、映画の作りはやや意図的な感じがした。韓国の経済成長の土台を築いた父の世代と大地への感謝をこめて「働く父」を描きたかったと監督は語っていた。近代化と効率化の中で、失われつつ韓国の原風景がそこにある。いかにも農耕機械と対比されるように牛で田を起こす老人や手作業の老夫婦が描かれ、「農薬を使ってラクさせておくれ」の老婆が愚痴を言い、田畑で農薬をまく近隣の農作業が映し出される。

最初、老婆の台詞は言わせているのかなぁ~と思ったけど、最後まで愚痴を言いっぱなしの老婆は、少し言わせたところがあるとしても、それなりに自然で良かった。このドキュメンタリー、ナレーションを一切使っていないという意味では、素晴らしい。少し言わせたとしても、老夫婦の言葉には、リアリティがあって面白い。ただ、映像は、映画のカット割のようで、やや過剰な演出を感じた。牛の目のアップや、牛がさも夫婦の会話を聞いているようだったり、牛の目の涙だったり、夫婦の切り返しショットだったり、映画的な手法でドラマチックに演出されていた。普通のドキュメンタリーは、こんな風にはいかない。いろんな撮り溜めた映像を編集で効果的につないだのだろう。鈴音や自然の虫や鳥の声もかなり加えられていた。

監督は、この老夫婦と老いた牛を見つけて、牛が死ぬまで3年間田舎に通い続けたという。カメラを意識させないように、手持ち撮影はやめたと言う。固定カメラで撮られ、3年間通い続けた老夫婦と牛の存在感は、リアリティがあって見応えがある。ただ、息子たちがお盆に帰って来て「牛を売れ」というシーンや、老人が牛市場で牛を売ろうとするシーンは、仕込があったのかなぁ~などと詮索してしまった。ドキュメンタリーなのに、あまりにも映画的物語が描かれているところに、やや演出を感じてしまったのは、ヒネクレた観方だろうか…。

それにしても、30年も生きて、最後まで大切にされ、天寿を全うした牛は、幸せだったろうなぁ~。そして、寡黙で頑固な老人と、愚痴ばかり言う老婆の関係は、基本的な男と女の関係だなぁ~と思った。生きることの何が幸せなのか?選択肢がありすぎる現代において、何も知らず何も変えず、ただ生きることを全うしている老人に、教えられる何かがあるのは確かだ。


英題: OLD PARTNER
製作年: 2008年
製作国: 韓国
監督・脚本・編集: イ・チュンニョル
キャスト:チェ・ウォンギュン、イ・サムスン

☆☆☆3
(ウ)
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ジャンル : 映画

tag : ドキュメンタリー

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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