「ジョゼと虎と魚たち」田辺聖子

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田辺聖子の短編集『ジョゼと虎と魚たち』(角川文庫)を読む。

もともと犬童一心監督(妻夫木聡・池脇千鶴主演)の優れたラブストーリーで知っていたのだが、小川洋子の本の紹介エッセイ「博士の本棚」に導かれて、この本を手に取った。
田辺聖子さんは、多くの女性作家に好かれている。小川洋子や江國香織、そして文庫本では山田詠美が解説を書いていた。

「私はいつも、苛立ったり、憂鬱な気分になったりした時に田辺さんの本を開く。そして、人生のいつくしみ方を教えてもらう。どんな難しい本を読んでも、それを学ぶことは出来ない。」と彼女への本への賛辞を表わしている。

山田詠美など彼女に惹かれる女性作家は、自らの女という性を見つめ、性を通して関係を描いてきた共通項があるような気がする。そこには、山田詠美が言うように「人生のいつくしみ方」を知っているからなのかもしれない。女性としての。


「女の棺」の感想で、山田詠美はこんなことを書いている。

「女が自分の二重人格に気付く時、そこで自己嫌悪に陥るか、自分を益々好きになるかは、その女の出来次第である。出来の悪い女は、素敵な二重人格者に成り得ないし、二重人格に気付いたとしても、それを余裕をもって眺めることが出来ない。そして、女を素敵な二重人格者に仕立て上げるのは素敵な男である。馬鹿な男が相手では女は素敵な、どころかただの裏切り者で終わってしまう。そして、もちろん女の方も馬鹿ではいけない。素敵な二重人格者たりえる才能に恵まれていなくてはならない。」

「女の棺」は、独身インテリアデザイナー宇禰と若き甥・有二との禁断の恋物語である。若い男の一途さを楽しみながら受け入れ、最後には一人秘かに土の中の恋の棺を埋める覚悟を持つ女の物語だ。自らを二重人格だと呼ぶ女の。悦楽と冷たさ。鋭利な匕首を隠し持つ女の微笑み。

一方で「うすうす知ってた」は、妹の婚約者が家に訪ねてくるだけで、自分のことのようにドキドキしてしまう奥手な姉の物語だ。自意識過剰で夢見るだけの姉。男性にも仕事にも行動的で積極的な妹を、大人のように見ている姉の自意識が、見事に描かれている。

男では絶対に書けないリアルな女性たちだ。関西弁がまたいいのだが、「お茶が熱くてのめません」は、女が一瞬にして冷める心の変化が見事に描かれている。昔付き合っていた男が事業に失敗して、成功した女性脚本家を訪ねてくる話だ。久しぶりの再会で、仕事一辺倒だった彼女は、昔の男が懐かしくて嬉しくて、お金を貸してあげてもいいかなぁなんて思ってる。しかし、男のちょっとした一言で、一気に冷めていく過程が面白い。

彼女の小説では、ちょっと頼りなくて、いい加減なところもあるのに、少年のようにストレートで憎めなくて、自分勝手なバカの男がよく出てくる。女がほっておけないようなタイプの男たち。
女は一瞬のうちに、気持ちが急に冷めたり、心と裏返しの行動だったりする二重人格的なところなど、何かと男には理解できないことが多い。その点、男はとても単純なような気がする。単純でワガママで自分勝手。

「ジョゼと虎と魚たち」は、映画と同じように障害者で好きな男に威張り散らしている孤独なジョゼのキャラクターがせつなく、いとおしい。寂しいからこそ強がる。幸せとは海の底の魚のように「死んだモン」になることだという彼女の言葉が刹那的で印象的だ。

「雪の降るまで」は、ひっそりと地味に生きている思われている中年女の匂い立つほどの性への思い。死んだらおしまい、だからこそ一回限りの完結、その今を生きようとする覚悟。


女たちの自意識と性を通じた陶酔や刹那(今=現在)へのいつくしみ。
そんな貪欲さと冷静さを感じる。

女が書く女になぜか興味がある。女は男にとって永遠の謎。だから興味は尽きないし、やっぱり惹かれるのだ。

(し)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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