「ミルク」ガス・ヴァン・サント

話題作『ミルク』を観る。マイノリティへの偏見と疎外に対して戦ったゲイの政治家・ハーヴィー・ミルクの1970年代の8年間を描いた映画だ。

ガス・ヴァン・サントは、とてもわかりやすいエンターテインメントとして、この伝説的な人物を時にドキュメンタリーのように、時にドラマ的に魅力的に描いている。

ガス・ヴァン・サントという監督は、とても時代性に敏感な監督だと思う。とてもいいタイミングで、時代を映す鏡のように映画を作る。ドキュメンタリーのように、私的映画のように、そして、娯楽映画としても。『パラノイド・パーク』は、無名の若者の殺人事件をモノローグのように映像で切り取ったし、『エレファント』は、コロンバイン高校銃乱射事件という社会的な大きな事件を、ドキュメンタリーのように静かに見つめた。『ラスト・デイズ』では、「ニルヴァーナ」のカート・コバーンの最後の2日間をこれまた静謐に描いた。心に静かに寄り添うように。『GERRY』は、砂漠の中で迷う二人の若者を実験映画のように捉えた。一方で、『小説家を見つけたら』『グッド・ウィルハンティング/旅立ち』『誘う女』などエンターテインメント映画をバランスよく撮る才能も持ち合わせている。(『サイコ』は未見です。)オバマ大統領就任という新しい時代を迎えたアメリカで、この映画が公開されたのも時代のシンクロを感じる。

『ドラッグストア・カウボーイ』から一貫して、彼の映画に出てくる登場人物たちは、社会の枠組みから外れた、疎外された孤独な若者たちが多かったような気がする。そして、この『ミルク』もまた社会の枠組みから外れてしまいそうになって、もがいている同性愛者たちの映画だ。政治的・社会的な映画であると同時に、優れて内面的・内省的モノローグ的映画でもある。

この映画の成功は、やっぱりショーン・ペンのキュートさに尽きるだろう。やや骨太な強い男を演じられるショーン・ペンが、とても繊細で可愛らしい面を持ち、一方で政治家のカリスマ性も併せ持ったこのハーヴィー・ミルクを見事に魅力的に演じている。男性同士のキスをはじめ、生々しい絡みもちゃんと描かれる。偏狭な世界の映画になっていないのは彼の魅力によるところが大きい。またパートナーのジームズ・ブランコも魅力的だし、『イントゥ・ザ・ワイルド』のエミール・ハーシュも彼を信望する若者を初々しく演じている。幼い未熟な恋人役のディエゴ・ルナは、『ミスター・ロンリー』のマイケル・ジャクソンの物真似男が記憶に残っているが、今回もナイーヴな若者を好演している。その幼さと弱さは、ゲイの世界をまさに体現していたように感じた。

そして、この映画がゲイの同性愛者たちの映画という枠組みを超えている要素として、暗殺者ダン・ホワイトを演じたジョシュ・ブローリンの存在がある。ダン・ホワイトは、マイノリティという問題を超えて、誰もが持ちうる疎外感や孤独・恨みや妬みという人間が持っている負の感情そのものだ。ゲイの仲間たちに囲まれて成功していくミルクを尻目に、家族を幸せにしたいだけなのに、次第に孤立へと追い込まれていくダン・ホワイトの存在は、誰もが社会的な疎外者になる可能性を示唆している。

この映画は、ハーヴィー・ミルクという歴史的な政治家の同性愛者たちの差別と戦う強い信念と一人の恋人も幸せにできなかった私的な愛との苦悩や葛藤を描いている映画であるのだが、同時に誰もがマイノリティとなり、誰もが孤立し、孤独と疎外感のなかで、のたうちまわることを教えてくれる映画でもあるのだ。

このハーヴィー・ミルクを描いた優れたドキュメンタリーがあるらしい。この映画でもラストに本人たちの写真が出てくるが、そのドキュメンタリーもあわせて観てみたい。現実そのものをリアルに描くことが、映画の使命ではない。ドキュメンタリーにしてもエンターテインメント映画にしても、現実をどう切り取るかなのだ。現実から何にインスパイアされ、何を描くかなのだ。


ショーン・ペンがオスカー受賞の時に「同性結婚を反対する愚かさ」を訴えていた。カルフォルニア州でも同性結婚が住民投票で禁止され、全米でも同性結婚が大きな議論となっているという。男と女の違いについて、いろいろと考えることが多いが、幸せのあり方はあらゆるあり方があっていいはずだし、偏見によってそれを押さえこむことが、少なくなることを願いたいものだ。

それにしても、彼らは会った瞬間から、お互いがそうであることを感じとるものなのだろうか。この映画でも、冒頭40歳の誕生日に、ハーヴィー・ミルクが駅でスコットと出会うそばから口説くシーンがあるが、彼らは会った瞬間に感じあうものなのでしょうかねぇ~。まぁ、男と女も会った瞬間から口説く場合もありますが…。

☆☆☆☆4

(ミ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 社会派

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No title

「ショーンペン=キュートさ」という表現ステキですね。
この作品にとてもパワーをもらいました。年齢に関係なく新しい世界を創っていったミルクにとても魅力を感じます。途中からショーンペンがミルク本人に見えてきました(笑)凄かったです。
ガス・ヴァン・サント監督作品は初めてでしたが、時代性に敏感な監督との事。チェックしていきたいです。

私はストレートですが、彼らはお互いがそうである事を感じとると思いますよ~、瞬間的に。そこのところ、なんとなく判る気がするのです!

No title

ガス・ヴァン・サントは、サービス精神のある娯楽映画とストイックなドキュメンタリーのような自主映画っぽいものとの間を行き来する監督です。この映画はその中間とも言えるような作品かも。

たぶん監督自身がゲイだったんじゃなかったかなぁ~。彼の映画に少年はよく出てきますね~。
ミルクの生き方には、何かに突き動かされるような強いものがありますね~。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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