「気狂いピエロ」 ジャン=リュック・ゴダール

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最近、観たい新作がない。それでもって、ジャン=リュック・ゴダールの旧作を久しぶりに見る。

昔観た時は、即興のゴダールのチンプンカンプンの台詞のやり取りと、奇妙な物語と破滅的な死とランボーの「地獄の季節」の一節の印象しか残っていなかったこの映画、この歳になってあらためて観ると、いろいろと感じ方が違うものである。

若かりし頃は、ジャン・ポール・ベルモンドの破滅的な死と絶望にばかりに心が動いた。主人公の心情に共感したい思いが強かったのだろう。そして南仏の太陽の光と海が印象的だった。逃げるのだ!南へ!・・・当時そう思ったものだ。

そして今回見て思ったのは、この映画は「色」の映画だということだ。あえて言えば「赤」と「青」の映画だ。
二人の衣装も車も旅行鞄もロケで使われる椅子など、あらゆる場面で「赤」と「青」が意識的に選ばれている。

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マリアンヌ(アンナ・カリーナ)の顔に流れる赤い血、ハサミで殺された小人をはじめ、登場人物たちは次々と突然殺される。赤い血をベッドに流して。ゴダールは「あれは血ではなく赤だ」と言ったそうだが、そうなのだ。「血」ではなく「赤」なのだ。この映画はすべてが茶番めいている。人生は茶番だ。愛も人生も殺人事件も武器密売も犯罪もベトナムも戦争も、逃亡劇や死までも。だから「死」に感情移入など出来やしない。そして、ピエロ=フェルディナン(ジャン・ポール・ベルモンド)は、青いペンキを顔に塗りたくって、まさにピエロとなって、ダイナマイトを巻きつけて青い海へと消える。赤い太陽と交わった青い海と。ランボーの詩とともに。

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マリアンヌの実家のパーティーでは、いろんなカラーフィルターの映像が挿入されるが、画面の色はやがて「赤」と「青」だけとなるかのようだ。マリアンヌの服がまず何よりも「赤」へとだんだんと移行していく。最初は「青いバスローブ」を着ていたではないか?パリから南仏に逃げる車は「赤」。彼女の後を追いかけてきた男たちは「青いシャツ」を着ているし、「青い車」も登場する。「青」から「赤」への逃亡の映画なのか。しかし、ピエロ=フェルディナンは、「青」の絶望の淵へと落ちていくかのようだ。マリアンヌが死ぬ場面も青と白のストライプに赤い血が顔から流れる。
「赤い太陽」と「青い空」は溶け合えるのか?永遠などあるのか?これは「赤」と「青」の映画なのだ。「赤」と「青」が交わりそうで、交わらない・・・「赤」に翻弄され続ける「青」の物語。

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そして言うまでもなく、この映画はアンナ・カリーナへのオマージュそのものである。彼女の美しさだけを撮った映画なのかもしれない。ゴダールにとってのミューズ。海辺の砂浜で「♪私の短い運命線・・・」と歌い、ベッドでは青いバスローブを着て愛の唄を歌い、何度も衣装を着替えて登場する姿はファッションショーのようでもある。そのたびに美しく変身していくアンナ・カリーナ。男を翻弄し、軽やかな正体不明の悪女として、ジャン・ポール・ベルモンドを煙に巻く。

映画的道具立てや引用。すべてが虚構でそれを茶番めいて撮っている。ピエロ=フェルディナンはカメラ(観客)に向かって呟いてもみせる。

我々は映画を観る時、「物語」という呪縛に捉われてしまいがちである。「物語」という虚構。しかし、ゴダールはその虚構をとことん異化しつつ、茶化して見せた。それでもそのなかで演じているフェルディナンとマリアンヌはやっぱり魅力的なのだ。それは虚構という茶番の中でも、輝いているのだ。人生とはそんなもんだというゴダールの声が聞こえてきそうだ。

原題 : Pierrot Le Fou
製作年 : 1965年
製作国 : フランス
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:ジャン・ポール・ベルモンド、アンナ・カリーナ、グラジェラ・ガルバーニ、レイモン・ドボス
原作 ライオネル・ホワイト
脚本 ジャン=リュック・ゴダール
撮影 ラウール・クタール
美術 ピエール・ギュフロワ
音楽 アントワーヌ・デュアメル


☆☆☆☆☆☆6
(キ)
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テーマ : DVDで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 人生 ☆☆☆☆☆☆6

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非公開コメント

あなたは、作家さんとかですか?
ブログか、プロ並みですね。
とても、楽しく拝見させて頂いています。
とても、いい趣味のレパートリーです。

ありがとうございます。

クマさん

作家ではありませんが、テレビで映像関係の仕事はしています。
テレビドラマを作った経験はありますが・・・。

何でもすぐ忘れてしまうため、どちらかというと自分のために書き始めたものですが
書いているうちに楽しくなるもので、面白く読んでいただこう思って書いているところも。

書くことによって、曖昧な思いが整理されたり、新たな発見があったり
面白いものですね。
ずーっと昔に見た旧作も、見直してレビューに書けたらなぁ・・・なんて
思います。老後の夢ですかね・・・。

そうですか~ステキです。

昨日、初めて、『シェルブールの雨傘』を観ました。色使いが、とても綺麗で、ウキウキした気分になりました。(^。^)

観た後、ヒデヨシさんの、コメントを拝見させて頂いて、夜な夜な、1人で、深く頷いてました。

村上春樹さんの、作品もお好きそうで、いいですね。

No title

*クマさん

『シェルブールの雨傘』と最近の『しあわせの雨傘』のドヌーヴの貫禄を比較してみるとまた面白いですよ。

またいろいろとご覧になって、参考にしてください。
いつでもクマさんの書き込みも待っていますよ。

ありがとうございます。

わぉ、ありがとうございます。観させて頂きますね。わ、観る前から、楽しみです。

私、気狂いピエロのコメントの所に、ずっと書き込んでしまってますが、次から、観た映画や、本のコメントの書き込みに、残しますね。

でも、尋ねたい事が出来たら、また、ここに、戻ってきてしまうかもしれませんが…
(笑)

他の、作品も、参考にさせて頂きます。
映画や、本の楽しみが、倍増です。ありがとうございます。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

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