「アデュー・フィリピーヌ」 ジャック・ロジエ

ジャック・ロジエ初体験、そしてその瑞々しさに興奮。

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ゴダールが絶賛し、トリュフォーが嫉妬したヌーヴェル・ヴァーグの伝説の監督。
寡作で知られ、日本ではあまり作品が上映されなかったらしい。


これは、物語に奉仕しているに過ぎない登場人物が、その呪縛から解放され、
物語を逸脱し、画面から溢れる瑞々しいほどの輝きとその過剰ぶりにただただ驚かされる映画だ。
天下無敵の若い女の子たちの身体の輝き。

ガーリームービーの傑作、1966年のチェコ映画「ひなぎく」があるが
この映画は、それに勝るとも劣らない女の子たちの輝きに満ちた映画である。
ひなぎく

物語はいたってシンプル。
1960年、兵役を数ヵ月後に控えたミシェルは、カメラ助手をしている勤め先のテレビ局で2人の女の子に出会う。
リリアーヌとジュリエット。ミシェルは、その2人の女の子の気を惹こうとし、2人もだんだんとその気になっていくが、仕事でヘマをしてテレビ局を辞めてしまう。ヴァカンスにコルシカ島へ行ったところ、そこでリリアーヌとジュリエットに再会。双子のように仲良しだった2人の女の子は、ミシェルをめぐって恋と嫉妬で関係がギクシャクしていく・・・。

男2人と女1人の三角関係はよく描かれるが(僕は『冒険者たち』がいちばん好き)、これはその逆の女2人と男1人の三角関係の映画。そして、とにかく若い2人の女の子たちが輝いている。海辺で、友達の家のベッドで、車で、カフェで、街角で。

2人がパリの街角を話しながら歩くシーンを延々と移動撮影のカットを積み重ねていくシーンがある(↑上の写真)。二人同じベッドに寝て、朝起きて「アデュー、フィリピーヌ!」と叫んで笑いあうシーンがある。

※フィリピーヌ(遊び)をやる(Faire Philippine)」というのがフランスにはあるそうだ。これは、2人の人間が、たとえば本来ひとつの殻の中に一つしか入っていない実の中に、双子のアーモンドやノワゼット(ハシバミ)の実を見つけた時に、その翌日、一方が他方に向かって「Bonjour Philippine」と最初に言ったほうが勝ち、という遊び、らしい。

とにかくそんなシーンが素晴らしい。物語を逸脱する過剰さなのだ。
冒頭のテレビ局シーンから始まり、車を買ってのドライブやミシェルの家族の食事シーンの会話、何度も撮り直されるCM撮影のいい加減さ、ダンスシーンや唄を歌い続ける陽気なイタリア人、ラストの船の見送り・・・などなど。

m_adieu_03.jpg


フランス人はよく喋る。本当によく喋る。これは、エリック・ロメールの映画を観てもよく分かることだが、その過剰なおしゃべりが物語から逸脱するのだ。それは、クエンティン・タランティーノの映画でもしばしば起きる。映画のストーリーを描くために登場人物や役者がいるのではないのだ。そのストーリーから、登場人物の存在自体があふれ出し、画面から立ち上がってくるのだ。物語の人形だったり、物語を体現するためにそこにいるのではなく、その呪縛からジャック・ロジエは登場人物を解放するのだ。
その過剰さこそが、フィルムの輝きとなって観客に伝わってくる。それは映画本来がもっている運動そのものだ。躍動感が漲っている。

この画面の過剰さは、ゴダールの過剰さにも通じる。
一方で、ジム・ジャームッシュやヴィム・ヴェンダースやアキ・カウリスマキのような監督たちは、不在と間合いの映画監督と呼べるかもしれない。間を作ることで、想像力があふれ出てくるような作りも一方ではある。そういう映画もまた、物語だけを伝えるための映画ではない。

ただ、この映画でも肝心な場面は描かれない。ミシェルが夜テントを抜け出してリリアーヌと何かあったのか、道を引き返してジュリエットと関係を持ったのか、そんなことは描かない。ただどちらかの彼女たちを不機嫌にしてみせるだけだ。そのあたりもちゃんと心得ている。

とにかく海辺で楽しいヴァカンスを過ごしたくなる映画だ。無駄に笑い転げ、無駄に不機嫌になり、無駄にバカ騒ぎをしたあの頃を思い出したくなる映画だ。そして、映画とは物語を描くためにあるのではなく、映像そのものの運動や輝きを描くことなのだと思い出させてくれる幸福な映画だ。物語の虚構というフィルムに閉じ込められるのではなく、人物たちがフィルムから立ち上がってくるような生き生きとした存在を感じさせてくれる映画なのだ。

ジャック・ロジエのバカンス

1960-62年/フランス=イタリア/ 110分/35mm/モノクロ/1:1.66
脚本:ジャック・ロジエ, ミシェル・オグロール
撮影:ルネ・マトラン
録音:モーリス・ラロシュ
編集:ジャック・ロジエ, モニク・ボノ
クロード・デュラン
音楽:ジャック・ダンジャン,
マキシム・ソーリー, ポール・マテイ
製作:ジョルジュ・ド・ボールガール
出演:ジャン=クロード・エミニ(ミシェル)/ イヴリーヌ・セリ(リリアーヌ)/ ステファニア・サバティーニ(ジュリエット)/ ヴィットリオ・カプリオーリ(パシャラ)

☆☆☆☆☆☆6
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なつ

ヒデヨシさん、こんにちは。
夏が到来する頃にロジエ体験できるなんてステキですよね。
すぐさまバカンスに行きたくなります。
二人の男と一人の女はフランス映画の定番ですが、二人の女と一人の男ものは少ないですよね。(恋のエチュードくらいしかぱっと思いつかず)
本当にフィルムの輝きに満ちた大好きな映画です。

No title

*かえるさん
実は先日、南仏のニースに行ってきたばかりなんですよ。まだバカンス前でしたが、青い海と青い空、そして白い雲、輝く光。良かったですよ~。
それですっかりこの映画を観て(これはコルシカ島でしたが)、気分が良くなっちゃいました。
「恋のエチュード」は懐かしいなぁ。トリュフォー作品、もう一度見直したいなぁ~。

No title

はち切れんばかりの輝きを感じました。

上記写真のパリの街並を歩くシーンは、目茶苦茶よかったですね~。観ながら思わず、「おぉ~っ!カッコイイ~」と声が出ちゃいそうに(笑)

件の「フィリピーヌ!」と叫ぶ所は、ちょっと良く判らないけど、なんだか異常なまでに楽しそうだしまぁいいか~(笑)などと思っていたのですが、なるほどフランスにはそういう遊びがあるんですね。
家族の食事シーンとラストの見送る場面も印象に残っています。


今まで「間」についてはかなり意識していましたが、「過剰さ」については頭の中に、認識があまりありませんでした。
あふれんばかりのそれが、作品に彩りを与える。そしてそれが匂い立ってきて、より映像作品としての輝きを増すのでしょうか?

ついついストーリーばかりを追ってしまう時がありますが、味気ないですね、、、

No title

*琳<りん>さん
ご覧になりましたか?初々しいばかりの輝きに満ちた映画でしょう。
二人の女の子の動きが躍動しているでしょう。
あの笑顔と台詞は、演じている仮面をはがされた存在そのものです。
ほとんど素人の女の子を使って撮影したそうです。

これはとても奇跡的とも言えるような幸福な映画です。
ゴダールの「勝手にしやがれ」も奇跡的な幸福な映画ですが
この作品も、それに劣らぬぐらいヌーヴェル・ヴァーグの躍動そのものの
映画だと思います。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

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