「ルシアンの青春」 ルイ・マル

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ジャズ・マヌーシュの創始者ジャンゴ・ラインハルトの軽快なギターの音色とともにルシアン(ピエール・ブレーズ)がフランスの田舎道を自転車に乗って降りてくるタイトルバックが印象的だった。久しぶりに懐かしく見たこの映画は、フランス戦時下の時代に翻弄された若き二人の劇的な恋愛物語ではなかったんだなぁ~と改めて思った次第。そこには、ただ時代に流されただけの男の子とユダヤ人という宿命を背負った女の子が、そのまま投げ出された感じで描かれているだけだ。決して劇的な映画ではない。あるのは瑞々しいほどの若き二人の肉体であり、正義でも悲劇的存在でもない、あるがままの若き二人だ。

ルシアンには野望も意志もない。どちらかというと自分の若さを持て余しているような感じだ。最初、鳥をパチンコ玉で撃ち落したり、野ウサギ狩りなど、彼の小さな暴力性・攻撃性が描かれる。誰にでもある暴力性。ルシアンは、ただなんとなくレジスタンスに志願したら相手にされず、夜の町で声をかけられてゲシュタポの手先であるドイツ警察に協力することになってしまった青年だ。結果的にレジスタンス活動をしている村の先生を密告し、裏切ってしまったが、そのことの悔恨はあまりない。それよりも警察権力を持ったことで、いい気になっていくどこにでもいる青年。多くの映画が、レジスタンスの闘士やユダヤ人など戦争被害者の側から戦争を描くことが多いが、この映画は成り行きでナチスに加担する加害者側になってしまった青年を描いているところが面白い。そんな青年が美しきユダヤ娘に恋をする。

オロール・クレマン扮するユダヤ娘は、自分の身や父を守るためにどこまで計算してルシアンと恋仲になったのかよく分からない。父親に売春婦呼ばわりされるが、彼女がルシアンのことを本当に好きになったのかは曖昧なままだ。だからこれは劇的な恋物語ではないのだ。彼女もまたルシアンと同様に、意志的ではない。はっきりしないのだ。だから余計にその肉体がまぶしい。だから余計に二人の存在がリアルなのだ。

正義の味方でもなく、悲劇のヒロインでもなく、大きな時代のうねりの中で生きた二人。ちょっとばかりたまたま権力を持ち、そのことを利用して美しき女に近づいた男と、ユダヤ人としての宿命から生き残るために、自らの体も利用することも辞さず、結果的に男と一緒に暮らすことになった女の物語なのかもしれない。そのくらい人間は、曖昧な存在なのだ。正義でも悪でもない曖昧さ。有利な立場になったり不利な立場になったり、時代によって状況は変わる。変わらないのは自然と営みと生活だ。食事をし、セックスをし、生きていくということ。

ラストは、逃亡先の自然の中で野生のような暮らしをしている二人に、「1944年10月12日ルシアンはレジスタンス側の裁判で銃殺刑に処せられた」という字幕が出る。物語はルシアンを裁くこともしない。彼の罪を罰するかのような悲劇的な死も見せない。事実の提示があるだけだ。加害者でも被害者でもなく、あえて彼らを単純化した存在にしていないところに好感が持てる映画なのだ。


原題:LACOMBE LUCIEN
制作年:1973年
制作国:フランス・イタリア・西ドイツ
監督・脚本: ルイ・マル
撮影:トニーノ・デリ・コリ
音楽:ジャンゴ・ラインハルト
時間:130分
出演:ピエール・ブレーズ/オロール・クレマン/ボルガー・ローヴェンアドラー

☆☆☆☆4
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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