「軽蔑」 ジャン=リュック・ゴダール

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映画についての映画だ。トリュフォーが「アメリカの夜」を撮り、フェリーニが「81/2」を撮り、ヴィム・ヴェンダースが「ことの次第」を撮ったように、ゴダールは映画についての映画「軽蔑」を撮った。最近では、チャーリー・カウフマンが「脳内ニューヨーク」を撮っていますね(あれは演劇か・・・)。

映画の現場には、映画そのものの苦悩や葛藤や対立や嘘が溢れている。監督と女優、監督とプロデューサー、監督と脚本家、そして巨大な嘘を作り出すための多くのスタッフと装置。そこには夢と混乱とお祭りがある。

ゴダールは当時のセックスシンボルとも言えるブリジット・バルドーを使って、アメリカ人のプロデューサー・ジェリー(ジャック・バランス)、映画監督はゴダールが敬する本物のドイツ人監督フリッツ・ラング、そして脚本家のポール(ミシェル・ピッコリ)とその妻カミーユ(ブリジット・バルドー)の関係を使って、映画とについての映画を撮った。

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スタッフのレール移動撮影の様子が映し出され、それにゴダール自身の声で、スタッフ・キャストの名前が告知されて映画は始まる。映画の嘘はこうして作られるのだとでも言うように。

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続いてイタリアの寂れたチネチッタ撮影所で英語しか話さない製作プロデューサー・ジェリーが登場し、試写室ではフリッツ・ラング監督と製作者との意見の食い違いが描かれる。製作者ジェリーが子供みたいに海で泳ぐ裸の女のラッシュを見て喜んだり、フィルム缶を円盤投げのように投げたりする幼稚さがなんだか極端で可笑しい。これはゴダールとこの映画製作者のジョゼフ・E・レビンの関係が投影されているとも言われている。冒頭のB・バルドーのヌードシーンは、製作者からゴダールにB・バルドーのヌードシーンが少ないと言われて追加撮影されたシーンらしい。

惜しげもなく美しき裸体ときれいなお尻を晒してるブリジット・バルドー。しかし、そこにはゴダールがミューズのアンナ・カリーナを「小さな兵隊」で描いたような熱い視線はない。美しき肉体として存在している金髪の女性がいるだけだ。その冷めた感じがこの映画のトーンだ。

物語は、製作中の「オデュッセイア」をめぐっての監督とプロデューサーの対立があり、新たに脚本の直しを依頼された脚本家ポールとその美しき妻とプロデューサーの三角関係が軸となる。映画の中の映画「オデュッセイア」がトロイの戦争に旅立ち、なかなか妻のもとに帰還しなかったのは、夫婦の不仲が原因だったとフリッツ・ラング監督がカプリ島で語るのも、神話の物語と夫婦の物語を重ね合わせているからだ。

「私の胸と乳首はどっちが好き?」と熱烈なをベッドで囁いたか思うと、突然美しき妻は豹変し、夫を軽蔑する。当時、ゴダールとアンナ・カリーナとの不仲がこの映画投影されていたかどうかは知らないが、女は突然、豹変する。は突然、前触れもなく冷めていく。これはどこの世界でも日常的に起きていることだ。プロデューサーが運転する赤いオープンカーに妻を乗せただけで。あるいは船に乗せただけで。妻はいつしかその男とキスをしていたりするのだ。それがなぜなのか、誰にもわからない。

金銭的にも困っている脚本家ミシェル・ピッコリは、仕事を受けようかやめようかと悩む。と嫉妬と経済。彼はなぜか風呂の中でも帽子をかぶっている。プロデューサーの家に行った後に、自宅で夫婦が諍いするシーンが面白い。ブリジット・バルドーはブロンド髪から黒髪へ、また再びブロンド髪へと部屋を行き来しながら髪を変化させる。赤いバスタオルを裸体に巻きながら。それはまるで変幻する女心のようだ。

と軽蔑。赤は欲望と愛だ。色彩や服装が大きな要素をしめるゴダールの映画にあって、色は象徴的だ。ジャック・パランスの赤いアルファ・ロメオや自宅の赤いソファ。関係の仲立ちをする通訳は、常に黄色いセーターかバス・ローブをまとっている。彼女が赤いセーターに着替えるシーンがあるが、それはミシェル・ピッコリと親しげに会話するシーンだ。黄色は仲立ち、そして冷静。裸体を包んでいたはずの赤いバスタオルから黄色いバスローブにB・バルドーが着替えた時、もう彼女は彼を愛していないと冷たく告げる。そして、黄色いバスローブを脱ぎ棄て、青い海へと飛び込むのだ。ラストの死は、ふたたび欲望と愛の赤いアルファ・ロメオ。ジャック・パランスは赤いセーターを着ている。そして事故の後に流れる赤い血。

通訳を介した英語とフランス語、イタリア語の会話。言葉の齟齬とズレもこの映画の大きな要素だ。関係は通訳を通じてしか成立しない。英語しか話さないアメリカ人プロデューサーとフランス語しか話さないB・バルドー。その二人の間には、脚本家ミシェル・ピッコリがいるし、通訳がいる。その仲介者を必要としていた二人は、二人だけになって関係など構築できはしない。待っているのは死でしかなかった。

ラストの車の事故シーンを見て、ペドロ・アルモドバルの「抱擁のかけら」を思い出した。あれも映画についての映画だった。ロベルト・ロッセリーニの「イタリア旅行」があの映画で使われていたが、この映画でも映画館で同じ「イタリア旅行」がかかっている。これは偶然なのか。アルモドバルがゴダールの「軽蔑」を意識していたのかもしれない。

そして、唐突な死とともにラストは静かな青い海をカメラは捉える。静寂の青い海。これは「気狂いピエロ」のラストにもつながっていく。映画の嘘と関係の突然の変化。ゴダールの愛と欲望の「赤」と「黄色」を介して、死と永遠の「青」。映画の父・リュミエールの言葉のように「映画に未来はないのか?」そして、愛に未来はあるのか?ゴダールの問いかけは、美しき永遠の青い海だけが知っている。

原題:Le Mepris
監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:ラウール・クタール
出演:ブリジット・バルドー、ミシェル・ピッコリ、ジャック・パランス、フリッツ・ラング
1963年フランス映画/1時間42分

☆☆☆☆☆5
(ケ)

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テーマ : DVDで見た映画
ジャンル : 映画

tag : ☆☆☆☆☆5

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はじめまして

フランス映画に興味を持ち、ゴダールの映画としては、この映画をはじめてみました。

背景などをよく理解していなかったので、大変参考になりました。
ありがとうございます。

コメントありがとう 

アメリカ民主主義さん、ゴダールはまず、傑作「勝手にしやがれ」を見てください。そして、アンナ・カリーナもの。「気狂いピエロ」とかをオススメします。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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