「クレイジー・ハート」 スコット・クーパー

好ましい映画である。人生を慈しむことを感じさせてくれるいい映画だ。
いたって地味な映画である。アクションも銃撃戦も劇的な展開もない。落ちぶれたシンガーの話である。でも僕はこういう映画が好きだ。
広大な何もないテキサスの大地。どこまでもまっすぐな道。こういう世界の果てのような荒涼とした風景と彷徨う人間の映画が好きなのだと思う。大好きな「パリ・テキサス」も何もない荒野を彷徨う男の物語だった。
落ちぶれたシンガーが田舎の町にやってくる。何百キロも車で走ってやっとたどり着いたライブ会場は、場末の寂れたボウリング場。こんなところで演奏するのか…と愚痴りながら、かつての人気カントリー・シンガーは、無一文で酒も買えない。昔からファンだったという店主の好意で酒になんとありつける。しかし、夜のステージは最悪。酔いどれて演奏途中で吐きながら、まともに歌も唄えない。こんな風にして始まる落ちぶれ男のシンガー、ジェフ・ブリッジスがなんともいい感じなのだ。
相手役のマギー・ギレンホールもいいし、かつての弟子の人気シンガー、コリン・ファレルもいい感じだ。とにかく登場人物が少ないのがいい。果てしない大地と孤独に生きる男と女。そんなアメリカのスケール感がとてもいいのだ。奇をてらうことなく、とても丁寧に描き上げたスコット・クーパー監督のデビュー作。こういう良心的なアメリカ映画が僕は好きだ。
原題:Crazy Heart
監督・脚本:スコット・クーパー
製作:ロバート・デュバル、ロブ・カーライナー、ジュディ・カイロ、T=ボーン・バーネット
製作総指揮:ジェフ・ブリッジス、マイケル・A・シンプソン、エリック・ブレナー、レスリー・ベルツバーグ
原作:トーマス・コッブ
撮影:バリー・マーコウィッツ
編集:ジョン・アクセルラッド
音楽:スティーブン・ブルトン、T=ボーン・バーネット
製作国:2009年アメリカ映画
上映時間:111分
キャスト:ジェフ・ブリッジス、マギー・ギレンホール、ロバート・デュバル、コリン・ファレル、トム・バウアー、ジェームズ・キーン、ウィリアム・マルケス、ライアン・ビンガム、ポール・ハーマン、リック・ダイアル、ジャック・ネイション
☆☆☆☆4
(ク)
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