「芋虫」 江戸川乱歩

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映画「キャタピラー」を観たあとで、あらためて江戸川乱歩の「芋虫」を読む。
まったく別モノの世界である。乱歩の「芋虫」には戦争へのメッセージはない。あるのは人間そのものの欲望と愛と底知れぬ哀しみの闇だ。


「時子が彼女の夫を、彼女の思うがままに、自由自在に弄ぶ事の出来る、一個の大きな玩具と見做すに至ったのは、誠に当然であった。」

「彼女の心の奥の奥には、もっと違った、もっと恐ろしい考えが存在していなかったであろうか。彼女は、彼女の夫を本当の生きた屍にしてしまいたかったのではないか。完全な肉独楽に化してしまいたかったのではないか。胴体だけの触覚の外には、五官を全く失った一個の生きものにしてしまいたかったのではないか。そして、彼女の飽くなき残虐性を、真底から満足させたかったのではないか。」


映画では、男の暴力性が描かれていた。戦争での暴力、そして妻への暴力。それが戦争で負傷して帰ってきたことで、自らにその暴力がのしかかり、彼は罪のように苦しむ。どちらかというと妻は戸惑いと混乱が描かれている。

一方で、乱歩の芋虫は、看病する妻の残虐性が描かれる。映画でも寺島しのぶが夫に「なんだい、その目は?」と苛める場面はあったが、乱歩の世界はそんな生易しいものではない。もっと本質的な人間の残虐性である。一個の肉のカタマリそのものを所有するような欲望。倒錯的な所有愛。まさに「一個の玩具」と見做すほどの残虐性。そして、彼女は彼の唯一の人間的な最後の証である「目」を傷つけてしまう。一個の完全なる「肉独楽」へ夫を化すために。そして、その自らの恐ろしいまでの残虐性に後悔し、「ユルシテ」と何度も夫に呼びかける。

ラスト、夫は家の柱に「ユルス」という汚い文字のメッセージを妻にを残して、闇の中、古井戸の底へと自らダイブする。その男と女のはかりしれぬ哀しみの闇。心の闇。これは想像を絶する闇の世界だ。戦争、不具者という設定を使って、乱歩は人間そのものの欲望の計り知れなさと哀しみを描いてみせた。一方、若松孝二は、戦争不具者とその妻の関係を使って、戦争と暴力そのものの闇を描いた。どちらが好みかは、それぞれなのだろうが、僕は乱歩の計り知れない洞察の深さにただただ息をのむばかりであった。

キャタピラー

(い)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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