「悪人」李相日

悪人

「本気で誰かと出会いたかった…。ダサいよね。」

寂しく哀しく孤独な人間達のドラマだ。深津絵里は哀しい顔がよく似合う。
本気で誰かと出会えない…、上辺だけの関係。友達も仕事仲間も家族でさえも表面的な関係。本音など話せないし、見栄を張って嘘でつくろうだけ、そして笑いでまわりを馬鹿にしてみたり。「あんた、大切な人、おるかね…」と被害者の女性の父(柄本明)がつぶやくように、「あなたにとって大切な人はいますか?」という映画である。

原作を読んでから観た。吉田修一氏がそのまま脚本も書いたということなので、原作がコンパクトに凝縮されている感じで、原作の世界がそのまま再現されていると言っていい。セルフを少なくし、心理描写を映像で見せていく作りには感心した。

ラストの犯人・清水祐一(妻夫木聡)がなんのために光代(深津絵里)を捕まる直前に襲ったのか、伝わったのだろうか。母に小遣いをせびる話もちょこっと出てきたが、彼が「悪人」を演じざるをえなかった彼の哀しさをクドクド言わずに、映像表現で描いていた。原作にあった「どっちも被害者になれんたい」というセリフは使われていなかった。説明的になると思ったのだろう。そのかわり、捕まりながらつなごうとする手で彼の本音を表現していた。そして、ラストで殺された現場に深津絵里を行かせ、「あの人は悪人なんですね。だって人を殺しているんですもの。」とつぶやかせた。

初めて人を好きになったのに相手は殺人犯だった哀しさを演じた深津絵里はまさにはまり役。妻夫木君も、生きることに不器用な祐一をうまく演じていて感心した。後半は二人の愛の逃避行になっていて、昔の映画だったら心中しちゃったりするんだろうなぁ~なんて思いながら観てました。灯台のロケ地もよかったですね。

それよりも何よりもあの床屋さんが良かったですね。原作のイメージどおりの昔ながらの床屋さん。最後に被害者の母の宮崎美子が夫の柄本明と「用が終わったら必ず帰ってきてね」と電話で話し、店を開けて待っている。そして何も聞かずに「お帰りなさい」と夫(柄本明)を迎えるシーン。じーんと来ましたね。

柄本明の芝居はいつもどおり文句なしの存在感。樹木希林のおばぁちゃんもベストな配役でしょう。さらに若手も頑張ってました。ひたすら浮かれて喋り続けて殺された女を(ちょっと可愛すぎるなと思ったけど)満島ひかりが見事に演じ、岡田君も嫌な大学生を好演。端役のバスの運転手のモロ師岡さんも母親の余貴美子さんもタクシー運転手のでんでんも良かったです。悪徳商法の先生の松尾スズキには笑っちゃったけど。

雨が効果的に使われてました。深津絵里が初めて登場するシーンの雨に濡れた自転車。傘をさして自転車でアパートに帰るシーンは良かったです。柄本明が殺人現場で娘を回想するシーン、妻夫木君が警察に自首しようとするシーンなどなど、重要なシーンは何度も雨を降らせていましたね。

祐一の過去のエピソードの個室ヘルスの話は削られてました。ちょっと残念。でも役者がみんな良かったので、原作のイメージにより肉体が加わって、背景の説明がなくなっても、また別の複雑な思いが感じられました。

映画を観てから原作を読むと、また映画の背景がわかって面白いかもしれませんね。原作も映画も、よく出来ていると思います。

製作国: 2010年日本映画
監督: 李相日
原作: 吉田修一
脚本: 吉田修一、李相日
撮影: 笠松則道
美術: 種田陽平
音楽: 久石譲
キャスト:妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり、樹木希林、柄本明、宮崎美子、松尾スズキ、光石研、余貴美子、塩見三省

☆☆☆☆4
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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