「カポーティー」ベネット・ミラー

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作家トルーマン・カポーティが、ノンフィクション小説の名作「冷血」を書き上げた6年間に迫るシリアスな伝記映画。カポーティーを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンが素晴らしい。そして抑制のきいた静かな映像演出も素晴らしい。見応えのある映画だった。

書くこと、表現すること。ノンフィクションとは、現実をどう引き受けるかということだ。「書くこと」によって、取材対象者の人生が変わることだってある。それだけ「書くこと」は恐ろしいことなのだ。

カポーティーは殺人者であり死刑囚であるペリー・スミス(クリフトン・コリンズ・Jr)に興味を持った。人間的な興味。それは自分が育った境遇と似ていたからだ。母に見捨てられた家庭。同じ家で育ったような二人。表の玄関から出て行ったか、裏から出て行ったかのような違い。そんなもう一人の裏の自分のような人間への興味から、死刑囚に近づく。そして親密になる。しかし、作家的興味である彼は、彼の真の友達ではない。ペリーがなかなか死刑にならないことで、苦しむ勝手なカポーティー。結末が書けない。ペリーから「助けてくれ」と頼られるが、応えられない。そして、ラストの死刑を見届ける重い現実。作家が現実を書くことで、現実が書くことを凌駕する。書くこととは何か?フィクションは現実を超えているのか?現実がフィクションに復讐するのか。カポーティーは、その後何も書けなかったようだ。それは「書くこと」の闇を覗いてしまったからかもしれない。「書くこと」の深淵と罪。

先日、BSジャパンで「田原総一郎の遺言」という番組をやっていた。田原総一郎がテレビ東京時代に作ったドキュメンタリーを振り返る番組だ。そこには過激な田原のドキュメンタリー論が表れている。ドキュメンタリーは「やらせ」だ。公平なドキュメンタリーなど存在しない。取材対象者を追い詰め、本音を引き出すためには何でもやる。その「土俵」を作ることが田原の「やらせ」だ。

ジャズピアニストの山下洋輔を大学紛争で対立するセクトのバリケードの中で演奏させ、ハプニングを期待した。ロマンポルノの女王・白川和子を老人ホームに連れて行き、自ら老人を肉体で慰めさせるよう仕向け、さらにガンで片腕を失った役者の人生そのものをドキュメンタリーとして描いた。そこには、人の人生をカメラが変えてしまうかもしれないことへの覚悟がある。彼が言う「土俵」とは、カメラの前に取材対象者も知らない裸の「自分」を曝け出させるための「場」のことだ。その「場」を提供するために、彼はドキュメンタリーの中で仕掛けるのだ。

僕が最も優れたドキュメンタリーだと思う作品は、原一男の「ゆきゆきて、神軍」だ。この映画は犯罪者スレスレの人間の闇を捉えたドキュメンタリーだ。過激なまでの男を撮り続けることで、男の過激さはさらにエスカレートする。カメラが人生を変えているのだ。まさにその瞬間が描かれている。

<撮ること>も<書くこと>も、現実を変える力があるのだ。撮られること、書かれることで、その人の人生は変わってしまう。それだけの覚悟を持って、何かを描かないと、現実など描けない。「カポーティー」という作家の闇を描いた静かな映画を見て、表現することの怖さをあらためて考えてしまった。



製作年 2005年
製作国 米
原題 CAPOTE
監督: ベネット・ミラー
原作: ジェラルド・クラーク
脚本: ダン・ファターマン
撮影: アダム・キンメル 
キャスト:フィリップ・シーモア・ホフマン、キャサリン・キーナー、クリフトン・コリンズ・Jr、クリス・クーパー、ブルース・グリーンウッド、ボブ・バラバン、エイミー・ライアン、マーク・ペルグリノ

☆☆☆☆4
(カ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 外国文学

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非公開コメント

カポーティを観ました。久々に惹きつけるられた作品でした。そして、スリリングでした。
原作の『冷血』を読もうと思います。
この本のタイトルは、犯人に向けたものなんでしょうか?自分自身に向けたもののように思えてならないのは、私だけでしょうか?

No title

*クマさん
フィリップ・シーモア・ホフマンの怪優ぶりが面白かったですね。あの甲高い声・・・。

カポーティはゲイだったのですよね。この犯人にも何らかの思いを持っていたのではないかと想像されます。

クマさんのおっしゃるように、人間の誰もが持っている闇と同時に、自らの力ではどうしようもならないゾッとするようなおのれの<冷血>さをも描いていたのかもしれませんね。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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