「日本辺境論」 内田樹

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売れている本である。ちょっと前に内田樹の「街場のメディア論」を興味深く読んだばかりだったので、関心があった。内田樹は、古今東西の哲学や文化人類学から思想、宗教、マンガ、映画まで幅広く論じられる今話題の論客である。しかも平易な言葉で書かれているので、読みやすい。内田樹の数々の本が本屋で平積みになっている。

日本人は日本人論が好きなのかもしれない。この本の中に出てくるように、日本人は日本人とはどういう民族なのか考えるのが好きなのだ。それは鎖国をやめて欧州列強との差を実感した幕末や明治の人たちだけでなく、日本人は常に世界と比較しているのだ。世界と比較して日本はどうだろう?といつも考えている。それは日本という国が、自ら依って立つ思想がないからだ。

昔から日本は遅れて来た民族だと言う。「日ノ本」「日出ずる処」=「日本」とは、「中国から見て東にある国」だという意味だ。つまり中国を中心にして考えられた呼称から「日本」は始まっているのだ。そして、いつも世界との差異を実感しつつ、日本はその世界の追いつこうと、<辺境の地>から、これまであらゆるものを学んできた。中国から来た漢字もヨーロッパの哲学も、文化もあらゆるものを独自のやり方で日本化してきた。

梅棹忠夫や丸山眞男、川島武宜らの「日本人観」を下敷きにしつつ日本の特徴の「きょろきょろ」という擬態語で説明する。


「世界のどんな国民よりもふらふらきょろきょろして、最新流行の世界標準に雪崩を打って飛びついて、弊履を棄つるが如く伝統や個人の知恵を棄て、いっときも同一的であろうとしないほとんど病的な落ち着きのなさのうちに私たちは日本人としてのナショナル・アイデンティティを見出したのです。」(P30)

「ここではないどこか、外部のどこかに、世界の中心たる「絶対的価値体」がある。それにどうすれば近づけるか、どうすれば遠のくか、もっぱらその距離の意識に基づいて思考と行動が決定されている。そのような人間のことを私は本書ではこれ以後「辺境人」と呼ぼうと思います。」(P44)

「私たちに世界標準の制定力がないのは、私たちが発信するメッセージに意味や有用性が不足しているからではありません。「保証人」を外部の上位者につい求めてしまうからです。外部に、「正しさ」を包括的に保証する誰かがいるというのは「弟子」の発想であり、「辺境人」の発想です。」


この「日本辺境論」が面白いのは、辺境であることを否定的に捉えるのではなく、その日本人の辺境であるがゆえの「弟子の思想」「学びの力」の能力の高さを肯定的の捉えているところです。この「学び」とは、「街場のメディア論」でも書かれていた「贈り物を見出す力」と同じようなことだと思う。そのものが何か分からなくても、そこから何かを学びとる力。贈り物と受け取る力。何かの役に立つかは分からないけれど、「清水の舞台から飛び降りる」ように無防備にダイブすること。これこそが辺境である日本人の武器となるのだ。



また、「水戸黄門」のドラマツルギーも「日本人と権力の関係についての戯画」だというのも面白かった。

「光圀自身が印籠を取り出して『控えい』と怒鳴っても、たぶんあまり効果がない」のであって、助さん格さんがやってはじめて有効となる。この二人は「虎の威を借る狐」だから、実のところどうして水戸黄門が偉いのか知らない。「でも、みんなが『偉い人』だと言っているから…」という同語反復によってしか主君の偉さを(自分にさえ)説明できない。(P153)

それは日本人は相手の議論をするのではなく、自らが優位に立つことで議論を封じてしまうのだという。相手の話の腰を折って「だから」とか「あのね」とかいう「しかたなしに専門的知見を素人にもわかるように言ってあげる上位者の常套句」を差し挟もうとするのだ。政治家や評論家などがよく使う手だ。そして、人々は議論の中身ではなく、どちらが言っているほうが「上位者」なのかで判断する。

「日本的コミュニケーションの特徴は、メッセージのコンテンツの当否よりも、発信者受信者のどちらが「上位者」かの決定をあらゆる場合に優先させる(場合によってはそれだけで話が終わることさえある)点にあります。そして、私はこれが日本語という言語の特殊性に由来するものではないかと思っているのです。」(P221)

ディベートする文化がない日本では、「空気」を読んで簡単に同調する。「学ぶ」力が優れている一方で、中味を見失う欠点もある。安易に「空気」に同調するのではなく、誰かの受け売りを言っているに過ぎない人を見抜き、自らの言葉と自らの身体感覚で語らなければいけないのだ。

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