「街場の現代思想」内田樹

内田樹の「街場のメディア論」「日本辺境論」に続いて、過去の著作にさかのぼって「街場の現代思想」を読む。
この本も軽い相談&回答形式で書かれているが、示唆と普遍性に満ちた文章が数々あるので、メモとして書き留めておく。

*二者択一の決断(転職)について
「決断というのは、できるだけしない方がよいと思います。といいますのは、『決断をしなければならない』というのはすでに選択肢が限定された状況に追い込まれているということを意味するからです。選択肢が限定された状況に追い込まれないこと、それが『正しい決断をする』ことにより、ずっとたいせつなのです。」(文春文庫P118)

 リスクを事前に回避し、間違った決断を反省し、学ぶこと。

*社内改革について
 「知性というのは『自分の愚かさ』に他人に指摘されるよりも先に気づく能力のことであって、自分の正しさをいついかなる場合でも言い立てる能力のことではない。」(P126)

*「死者の声が聞える動物」
 「人間が墓を作ったのは、『墓を作って、遠ざけないと、死者が戻ってくる』ということを『知っていた』からである。(中略)人間の人類学的定義とは『死者の声が聞こえる動物』ということなのである。そして、人間性に関わるすべてはこの本性から派生している。」(P160)

 「人間というのは『決して気持ちが通じ合わない他者(つまり『死者』のことだ)』の気配や魂魄やメッセージ『さえ』聴き取り、感じ取ることができる能力によってサルと分岐した。人間の人間性は、『絶対的に理解も共感も絶したはずの他者の声が、それでもなお聴き取れる』という逆説のうちに存するのであり、そこ以外にない。」
(P162)

 理解できない存在である他者であるにもかかわらず、その他者の声を聴くことができるからこそ、ともに暮らし、結婚する意味がある。

*離婚について
 「『やり直しが利く』という条件の下では、私たちは、それと知らぬうちに『訂正することを前提にした選択』、すなわち『誤った選択』をする傾向にある。」

 「まさに『リセット可能』であるがゆえに、その可能性を試してみたいという無意識の欲望を自制することはできない。それはその人が特別に自制心が欠けているとか、愛情が乏しいとかいうことではない。ボタンがあれば押してみたくなり、ドアノブがあれば回したくなる。人間というのはそういうものなのである。」(P168)

 「未来はわが身にその未来が到来するありさまをありありと想像できる人間のもとに選択的に訪れる。」(P174)

「幸福であれ不幸であれ、未来についてクリアカットな想像を抱くものはそのような未来を招き寄せずにはおかない。」

「私たちが破局に向かって加速しているとき、実は私たちは思考の自由も想像力も奪われ、そう『妄想』することを強いられているのである。」(P179)


*生きることの愉しさについて
「人間は死ねるから幸福なのだ」

「人間は限られた時間、限られた空間のうちに封じ込められ、一度壊れたら二度と旧に復することがなく、一同失ったら二度と出会えないものに囲まれている。人間をめぐる事象のすべては不可逆的に失われる。しかし、『すべては消滅し、私たちは必ず死ぬ』という事実そのものが実は人間の幸福を基礎づけているのである。」(P233)

「今目の前にある『うつろいやすいもの』の美や儚さは、それらの器物そのもののうちに内在するのではない。そうではなくて、『それが失われた瞬間に立ち会っている私』という先取りされた視座が作り出した『想像の効果』なのである。私たちが『価値あり』と思っているものの『価値』は、それらのここに事物に内在するのではなく、それが失われたとき私たちが経験するであろう未来の喪失感によって担保されているのである。」(P235)

「私たちが物語を楽しむことができるのは、仮想的に想定された『物語を読み終えた私』が未来において、現在の読書の愉悦を担保してくれるからである。」

「人間は前未来形で自分の過去を回想する」ジャック・ラカン

「私たちが、いま自分のみに起きているある出来事(人間関係であれ、恋愛事件であれ、仕事であれ)が、『何を意味するのか』ということは、今の時点で言うことができない。それらの事件が『何を意味するのか』は100%文脈依存的だからである。」

「その出来事が終わった時点にまで、想像上の時計の針を進めなければならない。」

「今生きつつある人間関係がどれほど複雑で、どれほどものごとの現われが錯綜していても、起きつつある事件がどれほど不可解でも、『死んだ後の私』を想定しうる私にとって、それは生きる経験の愉悦を増すこそすれ、それを減殺するものではない。むしろ話が複雑になり、混乱が深まるほどに、『私という物語』を読み終えたときに立っている視座から一望俯瞰される風景の広大さに対する期待が私たちの中では高まる。」

「今の若い人たちに欠けているのは、『生きる意欲』ではなく、実は『死への覚悟』なのである。『生きることの意味』が身にしみないのは、『死ぬことの意味』について考える習慣を失ってしまったからである。」



未来から今を見る視座、死から生を見つめる視点…この視点こそが、「今」をより生き生きと意欲に満ちたものにさせる。日々失われ、壊れ、儚く過ぎ去るものに囲まれている私たちは、だからこそ「今」に価値を見出す。モノそのものに価値があるわけではない。それがやがて失われるからこそ価値があるのだ。

(ま)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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    リザとキツネと恋する死者たち
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2011年映画ベスト10
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