「態度が悪くてすみませんー内なる他者との出会い」内田樹

内田樹の印象的な文章を書き出しておく。

コミュニケーションの不調は、コミュニケーションの当事者双方が「文脈が読めなくなる」ことに徴候化する。

私たちが今眼前にあるものが何であるかを知りうるのは、過去と未来とに拡がる「地平」の上にそれを置く限りにおいてである。「過ぎ去ったもの」と「未だ来らざるもの」はいずれも今ここにはない。だが、にもかかわらずそれを勘定に入れないと、私たちは「今ここにあるもの」が何であるかを言うことができない。「文脈を読む」というのは、いわば「もう聞こえない音」の残響がまだ聞こえ、「まだ聞こえない音」の予兆がもう聞こえるということである。

私たちは時間的流れの中に適切に身を処しうる能力を「文脈を読む力」、その語の本来の意味における「コミュニケーション能力」ではないだろうかと考えてるのである。(P25)


自然が教えてくれるもの…それは「時間」

 自然の中では雲も、風も、木も、花も、虫も…みな時間の中で動いている。あるものは速く、あるものはゆっくりと。だが、停止しているものは一つもない。一輪の花も一匹の虫も、自然の中では絶えず動いている。ランダムに、だが、紛れもなくある種の「天上的秩序」にしたがって動いている。
 都会にいるときに不快を減じるために時間をできるだけ切り縮めようとするのはちょうど逆に、自然の中にいるとき、私たちは空間的現象を時間の流れの中で賞味することからできる限りの愉悦を引き出そうとする。
 私たちが雲を観て飽きることがないのは、それが風に流れて、形を変えて、一瞬も同じものにとどまらないにもかかわらず、それが「今まで作っていた形」と「これから作る形」の間に律動があり、旋律があり、諧調があり、秩序があることを感知するからである。雲を観る人間は、空間的現象としての雲の動きを一種の「音楽」として、つまり時間的な表象形式の中に読んでいるのである。

 都会における生活のすべてを「今、ここ」に凝縮し、過去と未来に拡がる未知性を捨象した「無時間モデル」を要求するように、自然の中での生活は、万象を「音楽」として聴くこと、「空間を時間的に表象する」ことへ私たちを絶えず誘うのである。(P30 「時間を勘定に入れる」)


人間は「秩序」あるいは「物語」を主食として生きる世にもまれな生物である。(P87)


阿部晴明は源博雅を相手に「呪」について語る。
「山とか海とか樹とか草とか、そういう名も呪のひとつだ。呪とはようするに縛ることよ。ものの根本的な在り様を縛るというのは名だぞ。たとえば、おぬしは博雅という呪を、おれは晴明という呪をかけられている人ということになる。この世は名づけられぬものがあるとすれば、それは何ものでもないということだ。存在しないとも言える」

人間は象徴界の住人である。ことばの世界だけが人間の世界である。だから死者もまた「人間の世界」つまり「象徴と記号と文字の世界」において弔う他ないのである。
ことばに呪能があると信じ、その呪能によって生き死にする世にも希な生物のことを「人間」と呼ぶのである。(P227)

(た)
スポンサーサイト

テーマ : ブックレビュー
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
158位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
68位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター