「身分証明書」イエジー・スコリモフスキ

身分

『アンナと過ごした4日間』のイエジー・スコリモフスキの60年代の初期作品をWOWOWで放送。画期的な試みだ。ポーランドのヌーベル・ヴァーグとも言える斬新な映像感覚。日本では公開作品が少なく、あまり知られていなかったスコリモフスキ監督の新たな世界を知ることができて面白い。

この『身分証明書』は長編デビュー作で、スコリモフスキ監督自らが主演し、監督・脚本・主演の3役をこなしている。さらに相手役の女性エルジュビェタ・チジェフスカは、当時の彼の妻で一人3役(同棲相手テレサと友人の女と街で出会う女・バルバラ)をこなしている。

同棲している女・テレサの部屋のベッドの暗闇で目覚め、すでに大学を中退しているのに大学生と偽り、あてもなくブラブラしている男・アンジェイが兵役で午後3時の列車に乗るまでの数時間が描かれる。まさに身分が曖昧な男の物語。

妻だといっている同棲相手テレサの勤め先を訪ねるも、テレサは給料をもらって午後は休みをとって不在であり、そのテレサとそっくりな女・バルバラと大学で出会い、しばし時間を過ごす。それはテレサと初めてデートで過ごしたような錯覚の時間。そして再び家に戻り、テレサに「どこにいたんだ?」となじり、2年も一緒に暮らしていても何も相手のことがわからないと感じるアンジェイ。自分の存在も曖昧なら、一緒に暮らしていた女の存在も曖昧なのだ。バルバラと過ごした時にしたように「変な顔してみて」とテレサにも迫るところが面白い。
そして、兵役に向かう列車にアンジェイは飛び乗り、テレサにそっくりなバルバラに手を振って見送られるのだ。

そんな曖昧な存在でしかない自分や愛する女性との曖昧な関係を描きつつ、飼っていた犬が狂犬病にかかっていて病院でいきなり殺されることになったり、少女たちがなぜか縄跳びをしていたり、音楽や踊りが突然始まったり、友人とのカフェでの賭け事の話やテレビ局のインタビューなど、たわいもない会話などの時間がダラダラと描かれる。そう、この映画はアメリカのインディーズ映画の父、ジョン・カサヴェテスの『アメリカの影』(1960年)に少し似ている。若い人たちの「まだ何者でもない」無為な空気感が充満しているのだ。

冒頭の壁に映る巨大な人物の影や夜更けの酔っ払いたちやそれを注意する警官の車を描いた夜の街の見事な移動撮影にまず驚き、兵役に関する質問シーンを主役の男の視線のみで描き、主役である男の姿の切り替えしが一度もないままにワンカットで彼に質問する男たちが写され続ける。その映像の大胆さにビックリ。さらに、カフェのテーブルが鏡になっていて不思議なアングルの映像や、階段を降り続ける主人公の目線がワンカット長回しの手持ちカメラ移動撮影、さらに電車への飛び乗り&飛び降りなどのワンカットなど、人物関係をカットを切り返してわかりやすく描く従来の映像的手法は取らずに、ワンカットで押し切ろうとする演出は、当時の若者たちの空気を描こうとする新鮮で斬新な映像感覚が感じられる。

原題: Rysopis
監督: イエジー・スコリモフスキ
キャスト保ほ:イエジー・スコリモフスキ、エルジュビェタ・チジェフスカ、ヤツェク・シュチェンク
製作国: 1964年ポーランド映画
上映時間: 76分

☆☆☆☆☆☆6
(ミ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 青春 ☆☆☆☆☆☆6

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cinemaparadysoのベルモンドで~す

一義的な解釈を拒んでくる作品ですね。とにかく理屈抜きで、面白い作品。大好きです^^
僕的にはイエジーの最高傑作は「不戦勝」。「早春」も最高に笑えて最高でした。「バリエラ」に関しては、ゴダールの面白くない映像表現を想起してしまったなぁ、、

No title

*ベルモンドさん
コメントありがとうございます。

いま「バリエラ」を見かけているのですが、いつも途中で眠くなってしまうんです。不思議な映像世界ですが、映画館の暗闇じゃないとちょっとキツイですね~。
「早春」もまだこれから見るつもりなので、楽しみにしています。

スコリモフスキ作品は、「身分証明書」と「不戦勝」を見て、ちょっとビックリしました。こんな映像作家だったなんて、もっと早く教えてよ~!って感じでした。どうして日本公開がなかったんだろう?こんなすごい作品なのに。
WOWOWでやったのは録画したので、順次感想は書いていくつもりです。

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Re: 「身分証明書」を読んで

JFKさん
書き込みありがとうございます。そして、お褒めの言葉、恐縮です。イエジ-・スコリモフスキは、たまたまWOWOWで初期作品を見ることが出来て、本当に驚きました。ポーランドは、ロマン・ポランスキーが初期に凄い作品を次々に撮っていますが(「袋小路」と「水の中のナイフ」が特に好きです)、このスコリモフスキは本当にすごい。日本であまり注目されていなかったのが不思議です。この「身分証明書」と「不戦勝」が特に僕は好きですね。そしてカルト的作品「早春」も驚き。「アンナと過ごした四日間」しか劇場では観たことがないのだけれど、もっともっと撮ってほしい監督さんですね。

レビューは、DVDや録画したものは、見直したりして書く場合もありますが、ほとんど見た印象で書いています。もちろん、キャストやストーリーはネットで確認したりしますが。映画によって、とてつもなく書きたくなるものもあるし、書くべきこともない映画もあります。何かいろいろと考えられて、書きたくなる映画が自分にとって好きな映画なのかもしれません。だからレビューには、いろいろと温度差もありますが、またお立ち寄りいただいて、お楽しみください。左のほうの映画監督別をクリックすると、その監督のレビューがいくつかあれば見ることが出来ます。あいうえお順でも検索できるようになっているはずです。

ではまた。

ヌーベルバーグ

イエジー・スコリモフスキ監督のモノクローム作品(出発)と(身分証明書)をポーランド映画祭で見ました。斬新な実験映画みたいな手法もあって、生き生きとしたヌーベルバーグの息遣いが感じられました。カメラで書いて行くという、映画を撮ることの悦びがあってー♪

Re: ヌーベルバーグ

>PineWoodさん
書き込みありがとうございます。
イエジ-・スコリモフスキは日本ではヌーベルバーグ時代にあまり紹介されなかっただけに、私もあまり知りませんでした。「アンナと過ごした4日間」「エッセンシャル・キリング」を観たくらいで。それが初期の映画を観て本当にビックリしました。まさに映画を撮ることそのものと格闘している感じですよね。まさに新しい波にふさわしい斬新さですよね。
 

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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