視線の物語

男は女を見る。女は男に見られる。カメラはその視線を切り返す。見る男の顔、男の視線としての女。そして再び見る男。そのカットバックによって映画は作られるといっても過言ではない。映画とは視線の物語である。

視線を扱った映画を数え上げたらきりがない。アルフレッド・ヒッチコックは視線をサスペンスの道具立てにした。『裏窓』は覗きから犯罪を目撃してしまう物語だし、その影響を受けた「覗き」の映画は数多くある。

先日ヒッチコックの『めまい』を観た。まさしく視線の映画だ。『めまい』では、死んだはずの女が再び男の前に現われ、男は死んだ女のイメージをその女に追い求める。最近観た『シルビアのいる街で』は、フランスの古都ストラスブールの街を昔出会った女を求めて、男の視線がさ迷う映画だった。視線がさ迷うという意味で、ヒッチコックの『めまい』を髣髴とさせる。『めまい』のジェームズ・スチュアートは、自分のせいで死んでしまった女、キム・ノヴャクの幻影を探し続ける。金髪の髪型、グレーのスーツ姿の服装。それはイメージに捉われた囚人のようだ。『シルビアのいる街で』の男もまたそんなイメージの囚人なのだ。

『トリコロール三部作』などで有名なクシシュトフ・キェシロフスキ監督もまた覗きの視線を多用していたように思う。『愛に関する短いフィルム』は、望遠鏡で女を覗き続けるという<見ること>の愛を描いた映画だった。

有名な江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』もまた天井裏から覗き見する男の話だし、最近の日本映画で『乱暴と待機』もまた浅野忠信が屋根裏から秘かに女の生活を覗き続けていた。パトリス・ルコントの『仕立て屋の恋』も隣りの美女を覗く中年男の映画だったよなぁ。思いつくままに数えるだけでも、そんな視線の映画はゾロゾロある。

こんな風に男は女を覗き続ける。あるいは男は女を見続ける。愛とエロスの視線。男は見る動物なのだ。それは女が見ることとどこか違う。そして女は男の視線を惑わす。化粧や髪型や服装を変えて。いつだって変幻自在なのが女なのだ。

男は視線のイメージのいつしか囚われ人となるのだ。視線の奴隷となるのだ。視線とはイメージだ。イメージがいつだって人間を束縛する。そして男はいつでもそのイメージに裏切られることになるのだ。なぜなら、見ることの存在そのものと化した時、その主体は透明化=幻想化する。幻想化しないで見ることなど、誰にもできはしない。特に男はその傾向が強いような気がするのだ。そのことを映画は、何度も何度も繰り返し描き続けているような気がする。
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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