「めまい」アルフレッド・ヒッチコック

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アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』を改めて見直し、この物語の重層的な構造の見事さを確認しつつ、この映画は変態的ともいえるジェームズ・スチュアートの<視線の物語>であることに思い当たり、さらに全編に漂っている死の気配のただならぬ雰囲気に、この作品がまぎれもない傑作であることを確信する。ヒッチコックは当時、キム・ノヴァクの配役に不満だったようが、この映画は彼のもっともすぐれた作品の一つと言えるかもしれない。

この物語の前半は観客をも騙す殺人事件に至るサスペンスであり、後半は事件のネタばらしをしつつも、二人の裏切りと愛の物語とで構成されている。そして前半と後半は見事に重なり合っているのだ。

まずは<演じる>ことがキーワードだ。キム・ノヴァクは、亡霊に取り憑かれた妻マデリンを演じ、スコティとともに彼女の演技に観客も騙される。そして後半は、スコティ(ジェームズ・スチュアート)が何を考えているのか何も知らない初めて会った女(ジュディ)を演じる。そして彼女は常に演じつつも、その自らの演技を裏切りながら彼を愛し続ける。

さらに自殺したカルロッタの死の亡霊は、マデリン(キム・ノヴァク)の演技を通じて、スコティ(ジェームズ・スチュアート)のなかに乗り移り、マデリンの亡霊が彼に住みつく。後半のスコティはまさにマデリンの亡霊に取り憑かれた哀れな男である。現実のジュディを彼は死んだマデリンに仕立て上げようとする。死の幻影に取り憑かれたように。そして、その死の影が、最後は塔の上のシスターの出現によって、再びジュディ=マデリンに襲いかかるかのようにして、彼女は墜落する。その見事な死の亡霊の連鎖。

また、墜落もまた何度も繰り返される。冒頭の刑事時代のスコティの同僚の墜落と高所恐怖症。さらに本当の妻の落下で繰り返され、最後はジュディの墜落で終わる。高所恐怖症は繰り返されることで克服されるが、落下の物語は死を何度も繰り返す。

このように前半と後半で何度も何度もテーマが繰り返されるのがこの映画なのだ。

そしてこの映画の最も特徴的で繰り返されるのが、スコティの視線だ。スコティは彼女を見続ける。最初は彼女を尾行しながら、グリーンの彼女の車を追い続ける。さらに墓地で、花屋で、美術館で、海辺で、林で、彼女を見続ける。亡霊に取り憑かれた女を心配して見守るために。そして、その視線はいつしか愛の視線へと変わっていく。しかし、彼はその視線で彼女を守れなかった(と思う)。その悔恨。しばしノイローゼになった彼は、同じ場所で何度も違うブロンド女を死んだマデリンとして見続ける。そして事件の後に、再び彼の前に現れた瓜二つの女を、死んだ女に重ねて彼は見続ける。そのマデリンの亡霊に取り憑かれた彼の視線こそ、愛(=幻想)に取り憑かれた男の視線なのだ。

人はいつだって幻想のイメージに取り憑かれている。そのイメージの呪縛から視線もまた逃れることはできない。自分が知らず知らずに呪縛されたイメージを誰でも追い続けているのだ。そのことの恐ろしさを見事にこの映画は描いている。

視線とは優れて映画的な主題であり、見る者と見られる者との視線の関係がドラマを作っている。彼がホテルの窓辺に彼女の影を再び見る時、街角でマデリンそっくりな女ジュディに出会い、ホテルの一室を訪ねる時、髪型を変えて再び彼の前にジュディがマデリンとなって廊下を歩いて現れる時、その視線が孕む緊張感は、とてもスリリングな瞬間となる。この視線のドラマこそ映画なのだ。

マデリンを初めて見た時から、スコティはその視線の呪縛に囚われ、死=落下という恐怖のトラウマから抜け出ることはできない。そのテーマは何度も繰り返される。そして真実を知り、そのトラウマを克服したかに見えたとき、自らの代わりに愛する亡霊を落下させるしかなかったのである。


原題 Vertigo
1958年アメリカ
製作・監督 アルフレッド・ヒッチコック
脚色 アレック・コッペル、サム・テイラー
撮影 ロバート・バークス
音楽 バーナード・ハーマン
タイトル・デザイン ソール・バス
美術 ハル・ペレイラ、ヘンリー・バムステッド
編集 ジョージ・トマシーニ
原作 ピエール・ボワロー
出演 ジェームズ・スチュアート、キム・ノヴァク、バーバラ・ベル・ゲデス、トム・ヘルモアヘンリー・ジョーンズ
上映時間 128分

☆☆☆☆☆☆6
(メ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : サスペンス ☆☆☆☆☆☆6

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