「手を挙げろ!」イエジー・スコリモフスキ

手を挙げろ

前作「バリエラ」ではシュールな不条理劇で世代間の確執と観念的な閉塞感を描いたイエジー・スコリモフスキ。街からスタジオへ。そして今回は密室劇の様相を呈し、更なる絶望的な行き詰まり感を描いている。もう列車を自在に飛び乗ったり、飛び降りたりできない存在になったのだ。場面のほとんどは貨物列車の中だ。

「身分証明書」「不戦勝」の延長上にあるこの「手を挙げろ!」で再び自ら出演し、アンジェイを演じている。しかし、彼はかつてのような中途半端な若者ではなく、元医大生の同窓会で再会を果たした5人の男女のうちの一人である。路面電車に華麗に飛び乗り、飛び降りていた若者、あるいは列車から迷った挙句に飛び降りてバイクに乗ってボクシング会場に戻った若者は、この映画では貨物列車の中に閉じこもり、ふざけ続ける。

そしてこの貨物列車は、アウシュビッツ行きの列車の暗喩でもある。ポーランドの忌まわしい歴史。そしてもはや英雄になれなかった彼らの世代への冷えたまなざし。家や車や鍵を所有するようになった5人の男女の死にまつわる遊戯がこの密室的な貨物列車の中で繰り広げられる。石膏の粉だらけになりながら、包帯と蝋燭を使いながら、そのふざけた振る舞いは、耽美的で退廃的でさえある。ひたすら無意味な騒ぎ。かつてスターリンの顔の目を4つも書いてしまった失敗が描かれるが、今の彼らにはかつてのような疾走も彷徨いもない。

ナニモノにもなれないまま、戸惑い、迷い、列車を乗り降りしながら、街を彷徨い続けてきたアンジェイは、過去を振り返りながら密室の貨物列車の中で、留まり続ける。列車は地獄へ向かっているかと思わせながらも、どこへも向かっていなかった。地獄はアウシュビッツだけではなく、この地そのものなのかもしれない…とでも言わんばかりに。

そして、アンジェイ3部作は終止符を打ち、イエジー・スコリモフスキはポーランドを離れて亡命を余儀なくされた。


<参考>
イエジー・スコリモフスキ監督の自作自演による自伝的3部作の最終編。母国ポーランドで上映禁止処分を受け、以後長らく同監督が亡命生活を送るようになったいわくつきの問題作。

「身分証明書」「不戦勝」に次いでイエジー・スコリモフスキ監督が主人公のアンジェイを3たび自ら演じた自伝的3部作の最終編。貨物列車の中で奇妙な一夜を過ごすことになった5人の男女が擬似的な強制収容所体験を味わうさまを鮮烈なタッチで描く。劇中スターリンの肖像を諷刺的に描いたのがポーランド政府当局の不興を買って上映禁止処分となり、以後長らくスコリモフスキ監督は国外で亡命生活を送る憂き目に遭うはめに。1981年、長年の封印を解かれる際に、その間の経緯を説明するプロローグ部分が新たに撮り足された。


原題:Rece do gory 
製作年:1967年
製作国:ポーランド
内容時間80分
監督 イエジー・スコリモフスキ
脚本 イエジー・スコリモフスキ
アンジェイ・コステンコ
撮影 アンジェイ・コステンコ
ヴィトルト・ソボチンスキ
音楽 クシシュトフ・コメダ
ユゼフ・スクシェク
出演
ザスタヴァ(アンジェイ・レシュチツ) イエジー・スコリモフスキ
アルファ ヨアンナ・シュチェルビツ
レコルト タデウシュ・ウォムニツキ
ロメオ アダム・ハヌシュキェヴィチ
本人 ジェーン・アッシャー
本人 アラン・ベイツ
本人 フォルカー・シュレンドルフ


☆☆☆☆4
(テ)
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