「早春」 イエジー・スコリモフスキ

早春

『アンナと過ごした4日間』で17年ぶりに復帰したイエジー・スコリモフスキ。その『アンナ・・・』の原点とも言える映画がこのイエジー・スコリモフスキがイギリスで撮った映画『早春』だ。彼の1964年のデビュー作『身分証明書』で、その驚くべき才能の開花を今回WOWOWの放送にて発見し、『不戦勝』では、そのワンシーンワンカットの完成された映像術のなかで、見事に曖昧な存在である中途半端な男を描ききった。当時、ゴダールがこのポーランドの鬼才に注目したというのもうなづける。僕は彼の作品の中では、この初期2作品が初々しくて冒険心に満ちていて、しかも青春の中途半端さが描かれていて、とても好きだ。

さらにカルト的作品とされる映像詩『バリエラ』、政治的理由で公開が延期になってプロローグを撮り足した『手を挙げろ!』もまた純度の高い寓話のような抽象的な映画詩だった。そこから一転、故郷のポーランドを離れ、彼は『勇将ジェラールの冒険』(1969年未公開)という映画をイギリスで撮ったあとに、この『早春』(1970年)を撮った。

これまでの彼の作品のなかでも、とても分かりやすい一方的な恋愛と不器用で哀れな男の青春物語になっている。

ロンドンの公衆浴場に勤めることになった15歳の少年マイクはそこで接待係をしている23歳の美しい娘スーザンに恋をする。しかし彼女には婚約者が。そんな事実を前に彼は苦悩しながらも次々と異常なまでの愛情を燃え上がらせてゆく。(alicinemaあらすじより)


『アンナと過ごした4日間』の火葬場で働く男が近くに住む看護師の女の家を覗き続けたあの一方的な愛の眼差しの原型が、この『早春』のマイク(ジョン・モルダー=ブラウン)にもある。同じ公衆浴場で働くスーザン(ジェーン・アッシャー)へのストーカー的な異常なまでの愛。スーザンは公衆浴場で客に体を触れせてチップをもらったり、婚約者がいながらも体育教師と関係を持ったり、なかなかのしたたかなアバズレなのである。彼の性への興味を弄びながらスーザンはあくまでも自分中心の勝手な悪女だ。そんな思春期の青年の性への憧れも含めたマイクのスーザンへの妄執と狂い方を、とことん滑稽に哀れに描いている。

雪の中でのスーザンの黄色いコート、赤い車、プールのブルー、スーザンと会計係の女の会話中に壁に塗られるペンキの赤や、ラストのプールに血とともに流れるペンキの赤。色彩感覚はゴダール同様に素晴らしい。

また、彼女にそっくりなヌードの写真パネルを彼が街角から盗み電車に乗り込む場面や、プールに浮かべ一緒に泳ぐシーン、コンドーム啓発ポスターを破って彼女が彼の体に被せるなどの写真複製物の映画への引用は、『バリエラ』でのポスター写真を顔に被せる場面を髣髴とさせる。さらに、公衆浴場の接客という性のなまなましいシチュエーションもなんとも奇抜で面白い。雪の中で無くしたダイヤを雪ごと運び、水のないプールで、溶かして探す場面も滑稽で秀逸だ。そして、度重なる水中シーンの連鎖と悪夢のような美しきラスト…。

そんな危うくせつない青春映画であるのだけれど、初期のポーランドでの彼の作品群と比較すると、やや物足りない感じがする。38年後に『アンアと過ごした4日間』で映像に深みを与えつつ、人間の深遠さまでも描いた原点の映画として見る上で、とても興味深い作品だ。そして、マイクの異様さと思春期の恋愛の不気味さと映像の詩的な美しさが重なって、なんだかいつまでもあとに残るインパクトのある映画かもしれない。


早春(1970)
DEEP END
製作国 イギリス/西ドイツ
公開情報 劇場公開(CIC)
初公開年月 1972/05/

監督: イエジー・スコリモフスキ
脚本: イエジー・スコリモフスキ、J・グルーザ、B・サリク
撮影: チャーリー・ステインバーガー
音楽: キャット・スティーヴンス
出演: ジェーン・アッシャー、ジョン・モルダー=ブラウン、カール・マイケル・フォーグラー、クリストファー・サンフォード、ダイアナ・ドース、エリカ・ベール


☆☆☆☆☆5
(ソ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 青春 ☆☆☆☆☆5

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この映画がどうしても見たいですWOWOWでしたかー

グーグルで早春検索してここにきました
レイモンド・チャンドラー、フランツ・カフカ好きです


とっても整頓されてて見やすくまとまったブログですね!
私の好きな監督もたくさん載ってたので、感想参考にさせていただきますぶっくーまーく◎

No title

ギャリソンさん、コメントありがとう。
いろいろ映画見られているようですね。
「早春」、いいですよ~。初々しい青春映画です。時代を越えてきゅんとなりますよ。

チャンドラーやカフカがお好きだとは!
ぜひ、ジョン・アーヴィングをおススメします。長いけど、読み始めたら面白いよ。

いつでも遊びにいらしてください。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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