「ふつうがえらい」佐野洋子

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佐野洋子は潔い。辛辣だ。女だ。身勝手な母だ。率直だ。歯に衣着せぬストレートさだ。
去年亡くなられた佐野洋子さんのエッセイを楽しませてもらった。

そんななかの一節。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は、他人に関して言えば、確信に満ちている人が、一番嫌いである。確認に満ちている人と話をすることくらい、退屈であほらしい事はない。好きにすれば、あんたの思うように、一人でやればいい。確信に満ちている人は、確信しているもの以外のことを、吟味したり、迷ったりすると困るらしいのである。前言をひるがえしたり絶対にしないから、目付き、顔付き歩き方まで、ひるがえさないものになって行く。そういうものを見ていても嫌なものである。私はね。とんでもないものがとび出して来ることがない。とんでもないものをとび出させないようにするのが、確信への道である。
 しかし私にはとんでもないものが、とんでもない時に、にょろりか、ポトンか、ガラガラとか、ドカンとか出て来なかったら、生きているのもつまらない、本当につまらないと私は思う。

ことばをおぼえれば、おぼえるほど、ことばが通じるようになって、ことばが通じることだけで満足したりして、そして、ことばでないものを感じたりわかったりすることを投げすててしまうのだ。

わたしは、もし子供向けの絵本を作り続けて行くなら、ことばでないものを通じさせなくてはいけないのですね。ことばや絵を通して、ことばでないことばの背後に、絵ではない絵の背後の、世界の不思議さをわかり合うことなのだ。(『ふつうがえらい』佐野洋子著 新潮文庫より)           
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

           
うんうん、と納得してしましました。そうなんです。最近読んでいた内田樹氏も同じようなことを書いていたのですが、言葉で確信している人はその言葉に呪縛されて、人の言うことなんて聞かない。その確信以外を認めようとしないのです。それはイデオロギーだったり、思い込みだったり、いろいろだけれど・・・。

だけど、言葉は万能でないのです。言葉で説明し尽くされるほど、世の中は単純ではないのです。言葉にすることは、とりあえずの解釈や考えや思いなのであって、その言葉の背後にある何かを感じとらなければならないのです。耳をすませて。息づかいや声音や表情や身振りや、それでも伝えられないいろいろなことを。言葉をいくらつくしても伝えられないことがあるということを忘れてはいけないのです。言葉の世界だけではない、絵でも映像でもあらゆる表現手段でも伝えきれない何かを掬い取ろうとする努力を、私たちは忘れてはならない・・・。



また「愛する能力」という文章で
「みっとのもないことをなりふりかまわずみっともなく出来る能力が愛する能力だと思う。」
というのも的を得ている。

一方で、「母親は限りなく自分勝手なのである。自分勝手に息子を愛するのである。」と居直り、息子に対する勝手な母親の愛を語り、「男の子は十歳になったら、内なる母を殺せ。自分勝手な気味悪い母は自らを殺したり絶対にしないからね。体を張って母を殺せ。」と勧めるのだ。

文庫本の解説で河合隼雄氏が書いている。

「佐野洋子は正しい。その上おもしろい。」
「正しいというのは正義ではない。」自分が下した正しいという判断について、佐野洋子は「私理由はわからない」と言っている。「正義」の方は必ず理由をもっている。「かくかくしかじか」という理由はイデオロギーとかによって支えられている。つまり、それは正しい理論、正しい認識、などというものによって支えられ、立派に見えるけれど、そこから知らぬ間に生きた人間が消え去っててしまう。それに対して、佐野洋子のいう「正しい」は、まず生きた人間が先行している。生きた人間の存在を通して、正しいという叫びがとび出してくる。「私は野性の中にある知性こそが、本当の知性だ、そして、それは人間が生き物であれば、「誰もが持っているものだと思う。」と書かれている。「誰もが持っているもの」を言いかえると「ふつう」になる。その「ふつうがえらい」のだ。

現代人は自分が「生き物」であることを忘れているのだ。うまくやったり、努力したりすれば何でもできる、と思いすぎている。今世紀になってテクノロジーが異常に発達したので、うまくやれば何でも可能と思いすぎているのだ。「えらい」人を見ると、自分も同じように「えらく」なろうとする。そのことによって無理しすぎて「生き物」である自分を見失ってしまうのだ。そのような偽物の「えらさ」ではなく、「生き物であれば、誰でも持っているもの」としての「ふつう」のところに、でんと腰をすえると、世間の評価とは関係のない「えらさ」を獲得できる。しかし、そのためには、人はひとりひとり個人差があり、自分ではどうしようもない欠点が沢山あることをはっきりと認識する必要がある。そして、その上で「神様はえらい」ということもわからねばならない。

河合隼雄氏のこの文章もなかなか味わいが深い。

(ふ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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