「シャネル&ストラヴィンスキー」ヤン・クーネン

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「ドーベルマン」は未見のヤン・クーネン監督だが、これは見応えのある映画だった。単なるガブリエル(ココ)・シャネルの伝記映画になっていないにもかかわらず、シャネルという人物が装飾されることなく冷酷に浮き彫りにされた映画かもしれない。

名優シャリー・マクレーンで孤児の生い立ちからデザイナーとして成功するまでの半生を描いた「ココ・シャネル」(2008年/クリスチャン・デュゲイ監督)、オドレィ・トトゥ主演で彼女が一番愛したと言われるイギリス人実業家ボーイ・カペルとの愛を中心に若き時代を描いた「ココ・アヴァン・シャネル」(2009年/アンヌ・フォンティーヌ監督)、どちらもココ・シャネルの人生そのものを描いた伝記的映画だった。

しかし、その最愛の男ボーイ・カペルが死んだあとに出会ったストラヴィンスキーとの短い交際の時代だけを切り取って描いたこの映画は、劇的なココ・シャネルの波乱に満ちた人生そのものというよりも、ある程度名声を確立したデザイナーであり、社会的にも自立した芸術家であり、進歩的な女性としてシャネルは描かれる。

1913年、パリのシャンゼリゼ劇場で公開されたニジンスキー振り付けによるロシア・バレエ団のバレエ曲「春の祭典」を初演したにイゴール・ストラヴィンスキー。客席からそのあまりの前衛性に非難轟々の嵐。新しい時代の芸術が大衆に受け入れられない現実からスタートする。それを客席から見ていて、その芸術性を見抜き、彼を支援することにしたココ・シャネル。時代と格闘する同じ芸術家の関係。成功したデザイナーと才能豊かな音楽家。

ココ・シャネルは、豪華な邸宅にストラヴィンスキーの家族ともども迎え入れる。しかし、奥さんが隣室にいるにも関わらずストラヴィンスキーと関係を持つ自由奔放な大胆さ。そんなシャネルを演じるアナ・ムグラリスの美しき冷たさは、とても存在感があり、リアリティさえ感じられる。孤児として生まれ、お針子を経て苦労して新しい時代を切り拓き成功したアーティストとして自負があったであろうココ・シャネル。そこには傲慢なまでの自信とプライドがあったであろう。だからこそ、時代に受け入れられない苦悩の芸術家ストラヴィンスキーを彼の才能に惚れこんで支援したのだ。その関係の中で、彼に「君は洋服屋だ」と言われ、プライドを傷つけられ、「私はあなたの愛人じゃないのよ」と言葉を返すその姿には、これまでの2作の伝記映画とは違った顔がある。そして、妻役のエレーナ・モロゾーワとのゾクゾクするような冷たい眼差しの交差と確執がこの映画の見所だ。正面から捉えられた妻の顔と沈黙。湯船に浮かぶストラヴィンスキーの顔。そして不安そうな子供たちの顔。そして、全てを知った上で表情一つ変えずに、自分の思い通りに行動するココ・シャネル。

人間はその人の心情に寄添うように肯定的に描くよりも、距離を置きながら冷徹に描いた方が、よりその人物の存在が浮き上がるものだ。この映画は、決して幸福な成功物語の人生賛歌ではないが、時代と格闘しながらプライドを持ちつつ、何かを成し遂げた人間の孤独と強さが描かれている。

英題: COCO CHANEL & IGOR STRAVINSKY
製作年: 2009年
製作国: フランス
日本公開: 2010年1月16日
監督・脚色: ヤン・クーネン
原作・脚本: クリス・グリーンハルジュ
音楽: ガブリエル・ヤレド
撮影: ダヴィッド・ウンガロ
キャスト:アナ・ムグラリス、マッツ・ミケルセン、エレーナ・モロゾヴァ、ナターシャ・リンディンガー、グリゴリイ・マヌロフ、ラシャ・ブクヴィチ、アナトール・トーブマン、マキシム・ダニエル、ソフィー・アソン、ニキタ・ポノマレンコ、クララ・ゲルブリュム、エリック・ドマレッツ、ニコラ・ヴォド

☆☆☆☆4
(シ)
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ジャンル : 映画

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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