「つむじ風食堂の夜」吉田 篤弘

初めて見る作家だった。なんとなく文庫本のシンプルな装丁と
タイトルに惹かれて買ったのだ。
読んでみて、予感は的中。
僕はこういうヘンテコな なんでもないような
ちっとも劇的でもない 奇妙な話が好きなのだなぁ~と
改めて自分で思ってしまった。

稲垣足穂の「一千一秒物語」のような宇宙的郷愁と
奇妙な夜の街。

それは たむらしげるの絵の世界でもある。


月舟町の月舟アパートメントの701屋根裏部屋に住む
人工降雨を研究しながら雑文を書いている「雨降り先生」。
ここに居ながら、もう一つ別の場所に居られる<二重空間移動装置>の
万歩計でイルクーツクやコペンハーゲンにいる帽子屋の主人・桜田さん。
エスプレーソが旨いコーヒースタンドのタブラカタブラのタブラさん。
主役になれない舞台女優の奈々津さん。
デ・ニーロの親方と呼ばれる古本屋の主人。
オレンジの灯りで本を読む果物屋の青年。
白になったり黒になったりする猫のオセロ。

十字路にうなる風に巻き込まれた客たちの誰もが
<つむじ風食堂>と呼ぶ安食堂に、夜な夜な月舟町の奇妙な住人たちが
集まってくる。

二重空間装置でこことは別の場所へ…。
「先生はいったいどこへ行こうって決めたんです?」
「まぁ、どこか遠く…ここじゃない、どこか遠くですよ」

「どこか遠く。それがいいんです。決めない方が。終わりのない方がね」
「行き着かないくらい遠くってことですから。まったく本当に遠いところですよ。先生にはそれがある。わたしにもたぶんある。そこへ向けて毎日歩いている。そういうことです」


「わたしもここが好き。先生は?先生はちゃんとそこにいる?」
「いますよ、ここに」
「ずっとここにいます」


「夜は宇宙である」ということを考えて、その果てのなさに、ここが消滅するような気がして自分が心もとくなったり、ここがあるから、こことは別の遠くを思い続けたり、月舟町の住人たちは、つむじ風に巻かれながら、あてどもない会話を今宵もつづけているのだ。

どこでもないどこかと とおいとおいどこか
東の果ては西の果て?
そして 消えてしまいそうになる時もあるあやふやなここ
そう こことどこか…
世界は どこかでつながっているのだ。

(つ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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