「海炭市叙景」佐藤泰志

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映画を観てから原作を手にとって読んでみた。映画もいいが原作もいい。味わいがある。どこにでもありそうな地方都市のどこにでもいそうな人たちの物語。少し時代の波に乗り切れず、取り残されつつある人々。少し家庭や仕事がうまくいっていなくて、行き詰っている人たち。その日常の一断面をすっと切り取ってみせるその手際。そこには過度に感情移入するわけでもなく、ほどよい距離感がある。それでいて、あたたかい眼差しもあるのだ。

佐藤泰志の故郷でもある函館市への思い入れも出ている。不勉強でこの作家のことはほとんど何も知らなかったので、彼の私小説的青春小説とも言われる初期のものも読んでいない。だから、いかにして彼がこの街を舞台にした短編連作集へ到達したのかもよくわからない。そして、この寒い冬の海炭市の市民たちの物語が、その後の夏と秋の物語へと繋がらず、書かれずじまいで未完に終わってしまったということも。彼が自殺してしまったことも知らなかった。

レイモンド・カーヴァー原作、ロバート・アルトマン監督の「ショート・カッツ」やポール・オースター原作、ウェイン・ワン監督の「スモーク」のような、あるいはジム・ジャームッシュの各都市のタクシードライバーの夜を描いた「ナイト・オン・ザ・プラネット」のような味わいがある。それぞれ人たちのそれぞれの生活。そしてそんな人たちが行き交う街が舞台となる物語。どちらかというと街が主人公というような空間的世界。さまざまな人たちを飲み込んで息づく街の物語。

架空の海炭市は、海と炭鉱しかない街。それに造船所と国鉄。そのどれもが、将来性を失い、さびれていった地方都市。函館には炭鉱はないが、バブル期の経済興隆から取り残された地方都市そのものの姿がそこにある。そしてその街に住む人々は、その街の不景気や行き詰まりの空気をそのまま体現している。

炭鉱で仕事を失った鉱夫の兄とその妹、妻子を連れて仕事のない故郷に引っ越してきた男、二代目として燃料店を切りまわすも妻の息子への家庭内暴力で行き詰っている男、青森からやってきた前科のあるパチンコ店で働く男、もうじき孫が生まれる定年間近の市電運転手、空港レストランで東京へ行くことを考えているウエイトレス、プラネタリウムで働く妻に浮気をされている男、50歳を過ぎて職業訓練所に通っている元炭鉱夫で飲酒運転で捕まる男、市役所の職安でカウンターのこちら側で働く男・・・etcなどなど。

全てが生活者なのだ。同世代の村上春樹からたちのぼる抽象的小説世界の登場人物たちとは正反対の具象的生活者たちである。必死に働きながらも暮らしはちっともラクにならず、仕事も家庭も行き詰っていく閉塞感。そんな人生のどうしようもなさを冷たい冬の空気とともに描いている。その冷たさがとても合っているのだ。だから、彼のこの小説の後半部となるべきだった<夏の物語>の景色が思い浮かばない。

それは作家・佐藤泰志が抱えていた人生そのものについての行き詰まり感だったのかもしれない。芥川賞候補に5回もノミネートされながら受賞できず、41歳で自らの命を絶った彼の冬の心象風景がこの小説には詰まっている。

(か)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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