「バッド・ルーテナント」ベルナー・ヘルツォーク

バッド

『リービング・ラスベガス』ではニコラス・ケイジがアルコール中毒症の刹那的なダメダメ男を演じていたが、今回はコカインである。麻薬中毒の悪徳刑事ぶりがなんともメチャクチャで笑ってしまえるほどだ。

ドラッグ所持で捕まえたカップルの女とセックスを始めちゃったり、病気の老婦人を恐喝したり、アメフト賭博で負け込んだり、麻薬がらみの殺人事件捜査で、元締めの親分に取り入るために警察の捜査情報を流したりで、もうその悪徳刑事ぶりがあきれかえるばかりだ。そうかといって、これはそんな堕ちていく男の物語というわけでもなく、最後はなんだか全てがうまくいき、事件を解決させて昇進までしてしまうのだ。人を食ったようなハッピー・エンド。

最後は、無事子供も産まれる平和な家庭生活に戻ったと思いきや、相変わらず捜査中に手に入れたドラックを吸っていたところで、ファーストシーンで洪水のあったニューオリンズで留置場で助けた男と再会する。その男から「あなたは命の恩人だ」と言われる。しかし、この最初のシーンだって、そんな英雄的な行為ではなくて、冗談のような高級パンツを濡らして助けただけで、昇進までしてしまったのだ。そして、「魚は夢を見るのか」などと言いながら二人で水族館の大きな水槽の前でボーとして終わるのだ。なんともヘンテコな映画である。

そもそもコカインの幻覚なのか、現実なのかが曖昧な描かれ方しかしていない。麻薬を取り上げたカップルの女とのセックスだって、彼の幻覚なのかもしれない。冒頭に水の中で泳ぐ蛇が登場するが、イグアナとかワニとかも頻繁に出てくる。またマフィアの銃撃シーンで、殺された男をさして「まだ魂が踊っている。もう一発だ。」という場面もある。死んだ男と同じ男がブレイクダンスを踊っているのだ。そんな明らかなドラッグ幻覚シーンもあるのだが、それでも幻覚の描かれ方が、どこか淡々としている。

そもそも悪徳にまみれた刑事が、ドラッグ中毒のまま、何一つ回復するのではなくそのままの姿で、罰当たりで墜落していくのでもなく、物事がなんとなくうまくいってしまう映画なのである。ラストの水槽での男二人の放心は、そんな人生の皮肉がそのまま描かれている。「魚は夢を見るのか?」。悪は滅びるわけでも、罪を背負って堕落するわけでもなく、現実は現実としてそのまま提示される。誰もが夢見るように、幻覚をさ迷っている。そもそも、このハッピーエンドだって、男の幻覚かもしれない。そうなると何が現実だか、幻覚だかが分からなくなってくる。ニコラス・ケイジの間抜けな可笑しさと、安易な悪は滅びる的ドラマにしていないところが面白い。


原題:Bad Lieutenant: Port of Call New Orleans
製作国:2009年アメリカ映画
配給:プレシディオ
上映時間:122分
監督:ベルナー・ヘルツォーク
脚本:ウィリアム・フィンケルスタイン
撮影:ペーター・ツァイトリンガー
音楽:マーク・アイシャム
キャスト: ニコラス・ケイジ、エバ・メンデス、バル・キルマー、アルビン・“イグジビット”・ジョイナー、フェアルーザ・バーク、ショーン・ハトシー、ジェニファー・クーリッジ、トム・バウアー、ボンディ・カーティス=ホール、ブラッド・ドゥーリフ、イルマ・P・ホール、デンゼル・ウィテカー、マイケル・シャノン、シェー・ウィガム

☆☆☆☆4
(ハ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 刑事もの

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