「どこから行っても遠い町」川上弘美

川上弘美は、やっぱり短編の方が面白い。東京の小さな商店街の市井の人たち。魚屋「魚春」やその屋上のかたつむりの殻のような小屋、小料理屋「ぶどう屋」、たこ焼き屋の「ロマン」などのお店が舞台となりながら、そこに行き交う人たちの繋がり。短編はそれぞれリンクしながら連作となっている。

それは因果とも言うべき縁であり、繋がりなのだ。

「ただ誰かと知りあうだけで、ただ誰かとすれ違うだけで、ただそこにいるだけで、ただ息をするだけで、何かを決め続けてきたのだ。おれが決め、誰かが決め、女たちが決め、男たちが決め、この地球をとりまく幾千万もの因果が決め、そうやっておれはここにいるのだった。」(「どこから行っても遠い町」)

知らないうちに、人と人は関わり、抜き差しならぬ関係になったり、走りだしたり、立ち止まったり、ともにいたりする。人と人との距離感が彼女の小説は面白い。


「好きな人が死ぬと、少し、自分も死ぬのよ」

「生きていてもだんだん死んでいく。大好きな人が死ぬたびに、次第に死んでゆく。」
「死んでいても、まだ死なない。大好きな人の記憶の中にあれば、いつまでも死なない。」

「平蔵さんが死んでも、源二さんが死んでも、あたしのかけらは、ずっと生きる。そういうかけらが、いくつもいくつも、百万も千万もかさなって、あたしたちは、ある。」
「この町の、今ここにいる人たちにつらなる、誰かの記憶の奥底で。そのだれかにつらなる、またほかの誰かの記憶の奥底で。」(「ゆるく巻くかたつむりの殻」)


生きていることの「こわさ」、自分の中のわからない「こわさ」、その存在の「はかなさ」や人との距離感。ここに出てくる登場人物たちは、誰もがみなそんなあわあわとした不確かさを抱えている。それでも、彼らはそんな不確かさを抱えながら、繋がりあっているのだ。


「じゃあ、お母さんはうれしいとき、どんなふうなの」
「水の中に沈んで、それでね」
「ゆっくり水をふくんでいって、しみとおっていって、でも最後にはね」
「最後に?」
「ふくみすぎちゃって、かなしくなるような、そんなふうな感じ、かしら」(「夕つかたの水」)

「うれしい」も「かなしい」も「好き」も「もうだめ」も「ああ、もう」も言ったそばから曖昧に不確かなものになっていく。

(と)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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映画にまつわる雑文です。
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