「パンドラの匣」冨永昌敬

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冨永昌敬監督は、『パビリオン山椒魚』を見た時は変な映画作る人だなぁと思った。そして、去年観た『乱暴と待機』は本谷有希子の原作だけに、これまた奇妙で面白い映画だった。そしてちょっと前のこの太宰治原作の『パンドラの匣』を見て、冨永昌敬監督の特異な才能にすっかり魅せられた。今後とも目が離せない注目の監督である。

「ひばり。」
「なんだい。」
「やっとるか。」
「やっとるぞ。」
「がんばれよ。」
「ようし来た。」

奇妙な「健康道場」と呼ばれる結核療養所での看護師と患者の挨拶のようなやりとりである。この原作にもある奇妙なやりとりが、この映画のリズムを作っていて面白い。最初に、西脇つくし(窪塚洋介)が退場するとき、みんなと握手しながら「ようし来た」とか言っていてなんだか奇妙だなぁと思ったら、口々にみんなそんな挨拶をするのだ。この会話繰り返しが妙に心地いい。

戦争に負けたあの日から、「僕はあたらしい男に生まれ変わったのだ」という結核少年ひばりを『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』のみーくんをやっていた染谷将太。彼は戦争中、結核であることを隠し、畑の中で死のうとしていた。なんの役にも立たない己の存在そのものが絶望だった。それが敗戦とともに虚無から希望の光を探せるのか…。

道場でのみんなのアイドルでひばりに思いを寄せつつも八方美人なマア坊に仲里依紗。さらに美人で年上の赴任してきた看護師の竹さんに川上未映子。この竹さんがひばりに「うち気が揉める」と言ったり、小声で「いやらしい」と言ったりする感じがいいのだ。マア坊はひばりに「いじわる!」と拗ねてみたり、「ひばりはまったく、のんきな人ねぇ」とひばりを子供扱いするのも面白い。

とにかくこの映画は、そんな登場人物たちのやりとりが面白いのだ。さらに印象的に描かれる竹さんが床を拭いている後姿。布団部屋でのマア坊とひばりの密会のシーンの二重に聴こえる声の使い方や電球の明滅。夜に不気味に黙々と作業している雑草取り。ひばりとつくしとの手紙のやりとりに男同士のプライドとけん制があり、竹さんやマア坊とひばりの微妙な三角関係も面白い。

窪塚くんの役回りを生かすためか、ひばりの嫁ぎ先を変更したり、結核仲間を死なせたり、原作との相違はあるようですね。どこか浮世離れした奇妙な映画です。

この敗戦の絶望から再生へと向かおうとする時代において、社会とは切り離された山間の独特の隔離された療養所で繰り広げられる死と生の物語。友が次々と結核の病に負けて死ぬ一方で、陽のあたる方を目指して伸びていこうとする植物のつるのように、少年は少しづつ知らぬ間に大人になっていく。

その独特の空気を描いた演出に魅了されました。佳作です。


製作国:2009年日本映画
配給:東京テアトル
上映時間:94分
劇場公開日 2009年10月10日
監督・脚本・編集:冨永昌敬
原作:太宰治
撮影:小林基己
美術:仲前智治
音楽:菊地成孔
キャスト:染谷将太、川上未映子、仲里依紗、窪塚洋介、ふかわりょう、小田豊、杉山彦々、KIKI、洞口依子、ミッキー・カーチス

☆☆☆☆4
(ハ)
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ジャンル : 映画

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