「疑惑の影」アルフレッド・ヒッチコック

ヒッチコックの旧作を順次見直しているので、レビューを書いておく。
この「疑惑の影」は初めて見た。

カリフォルニア州サンタローザで家族と共に平凡に暮らす長女チャーリーとニューヨークに住む叔父チャーリー。二人のチャーリーのサスペンス映画だ。

冒頭、ベッドに寝ている男。金が散乱している。そして召使が訪ねてきた二人の男のことを告げる。窓の外にいる二人の男。壁にグラスを投げつけて割る。何やら事情のある男が追われていることが分かる。やがて男が家を出ると、二人の男が後をつける。俯瞰ショットで尾行する二人。そして尾行をまいたチャーリー、再びビルの上から男たちを俯瞰している。

同じようにサンタローザでベッドに寝ている女(テレサ・ライト)。憂鬱そうな二人のチャーリーが同じ姿で対比される。さらに同じタイミングで叔父のチャーリーのことを思い、二人が電報を打ち合おうとすることで同調する二人を描く。サンタローザに着いた叔父が、再び家の窓から外を見ると、刑事の代わりに今度は主婦が二人話している場面も反復して描かれる。このような反復が効果的に使われている。

そして列車内の個室から聴こえる病身の男の声、駅に降り立つと男は足を引きずり歩いている。それが姪のチャーリーと出会った途端に、元気な叔父となる。この数分間のうちに、この叔父チャーリー(ジョセフ・コットン)の怪しげな訳ありの男であることを観客に知らせる。

映画は、叔父に好意を抱いていた姪のチャーリーが次第に疑念を持ち始め、刑事と出会い、叔父の秘密を嗅ぎつけてしまうあたりからサスペンスは高まっていく。ワルツの曲、エメラルドの指輪のイニシャル、破り取られた夕刊記事。記事のことを言った途端の豹変する表情。国勢調査に対する叔父の態度。写真。刑事の出現。図書館で調べた事件…。その姪のチャーリーが次々と疑念を膨らます過程と叔父の態度の変化。さらに、殺人事件の犯人が別の場所に捕まるとともに、叔父のチャーリーと姪とに間に、さらなるサスペンスが高まっていく。ガレージ、階段、再びガレージ。そして列車。このあたりの心理戦も見事だ。

彼女に取っていい人に見えた叔父は、銀行で父を貶める冗談を言ったり、次第に見え方が変わってくるところが面白い。殺人鬼の表情を表し、冷徹になっていく叔父。食事のシーンで、世の中の金持ちの未亡人がいかに腐っているかを力説するシーンの冷たい横顔のクローズアップは印象的だ。さらにガレージに姪を閉じ込めて、レコードの音量をわざと上げたりする場面もヒッチコックならではの演出だ。

姪のチャーリーの父とその友人が、いつでも殺人のトリックについて語り合っている脇の演出も面白い。ニュートン家のいつも本を読んでいるメガネの女の子もいいし、急いでいる姪のチャーリーに注意する交通巡査官の2度の登場なども巧い。こういう細部まで演出されているところが、ヒッチコックの素晴らしいところなのだ。

結局、叔父のチャーリーがどんな人生を歩んだのか?なぜ未亡人をこれほど嫌っていたのか?などは説明されないまま、最後に姪のチャーリーに「幸せじゃなかったのね」と言わせるだけ。二人の出会いから、一緒に二人が過ごす緊張のサスペンスに映画の主題が置かれている。

ヒッチコックの映画は、本当にハズレがない。どれもシナリオが見事だし、サスペンスの心理描写と映像演出が巧い。


原題”Shadow of a Doubt”
製作:1942年アメリカ

監督: アルフレッド・ヒッチコック 
製作: ジャック・H・スカーボール 
原作: ゴードン・マクドネル 
脚本: ソーントン・ワイルダー 
    アルマ・レヴィル 
    サリー・ベンソン 
撮影: ジョセフ・ヴァレンタイン 
音楽: ディミトリ・ティオムキン、チャールズ・プレヴィン 
出演: テレサ・ライト、ジョセフ・コットン、マクドナルド・ケリー、パトリシア・コリンジ、ヘンリー・トラヴァース、ウォーレス・フォード、ヒューム・クローニン 

☆☆☆☆4
(キ)


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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : サスペンス

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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