「サーカスの息子」ジョン・アーヴィング

物語作家のアーヴィングが混沌とカオスのインド・ボンベイを舞台に、まさにサーカスそのもののような世界を描き出した。

アーヴィングの小説の登場人物には、変わり者、異端者、不具者が多い。クマのスージーをはじめ、小人症のオウエンや作家のリリー、オーストリアの娼婦に過激派、性の犠牲者・舌のないエレン・ジェイムス党員、交通事故での障害者…数えあがたらきりがない。いつだって異端者、フリークスのオンパレードだ。

そして今回はサーカスの世界の小人たち、象に足を踏まれて足が変形している乞食少年・ガネーシャと少女売春婦、性転換者、ヒッピー娘と巨大な張形の男根、双子の美青年にアル中脚本家や淫乱女優、露出狂の貴婦人やら老イエズス会士たちやゾロアスター教にヒンズー教徒、もう宗教も性もすべて混沌としたミックスされたヘンテコな世界。まともな人はパテル警部ぐらいか…。

誰もが異端者であり、異邦人。居場所を見つけられない人々。主人公であるファルークは、整形外科医にして映画脚本家。インドでもカナダでも自分の居場所がない。夢の中の住人であり、それはスイスとインドで役者をしているジョン・Dも、宣教師になりそこねたマーティンも、女性でも男性でもいられなかった怪物・ラフルもまた同じなのだ。登場人物の誰もがさ迷っているのだ。どこにもいられずに、安住できずに、帰属できない。淫乱女優ヴェロニカも性の世界を迷い続けているし、パテル刑事の妻になったナンシーもまたインドがら遠いアイオワを思いつつ、いつもバルコニーから西の夕陽を見続ける。

ここでは宗教もまた混沌としたなかにある。ヒンズー教にゾロアスター教にカトリック、プロテスタン。インドを舞台にすることで、まさにアーヴィングのサーカス的カオスの中での魂の遍歴とでも呼ぶべき世界が描き出されている。猟奇殺人事件という物語性を柱にしながら、読み応えのあるそれぞれの混沌と彷徨。

そして、誰もが夢の中の住人。性と暴力が支配するこの世界の中で、現実とは別の物語という妄想のなかで生きている。ファルークの映画化されなかった幻の脚本のように、物語世界が現実を超える。犯人逮捕のプロセスさえ、物語が仕組まれる。現実と物語の交錯。そう、アーヴィングにとって、物語性こそ暴力が支配する現実に立ち向かえる力なのだ。

(さ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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