「トゥルー・グリット」コーエン兄弟

一作ごとに作風を変えるコーエン兄弟は大の映画好きだ。あらゆる映像手法を駆使して、人間の馬鹿らしさや滑稽さや愚かさや強い信念や深い哀しみを描いてきた。映画のことを知りつくしている二人。彼らの最高傑作は『ファーゴ』であることは誰もが認めるところだろう。かと思うと『ビッグ・リボウスキ』や近作『バーン・アフター・リーディング』のような突拍子もない滑稽で不思議で楽しい映画も作る。そんなコーエン兄弟が西部劇という体裁をまとった少女の冒険ファンタジー&ロードムービーを作った。
『ノーカントリー』では、逃げる男と追う殺人鬼、理不尽で理由なき圧倒的な暴力そのものを描いたのに対して、この映画は正反対にわかりやすくストレートに、父の仇である犯人を追う少女の「真の勇気」(トゥルー・グリット)を描いて見せた。少女のまっすぐな思いと勇気に、飲んだくれの保安官(ジェフ・ブリッジス)と犯人を追いかけているテキサス・レンジャー(マット・デイモン)の2人のオヤジが巻き込まれていく。少女マティ役のヘイリー・スタインフェルドの生意気な感じと強い眼差しがいい。少女のまっすぐな意思がこの映画の推進力だ。
さらに二人の男と一人の少女との微妙な三角関係のロードムービーとしても楽しめる。男2人と1人の女の旅モノと言えば『明日に向かって撃て!』や『冒険者たち』などを僕は思いだす。それら映画の雰囲気とは全く違うが、旅の過程で少女と2人の男の関係が変わっていくあたりは同じだ。
ラストの幻想的な星空の下を馬が駆けるシーンは、コーエン兄弟らしい幻想的なファンタジーだ。少女の冒険活劇の最後でオヤジたちは必死になる。人間とともにある馬の疾走が映画の全編を通して印象的な映画だ。
いつもひねりの効いたコーエン兄弟の作品としては、ストレートでまっとう過ぎる展開に物足りなさは感じるが、少女の意志の強さとともに二人の男のサポートぶりが楽しい。ラストの登場する40歳になった少女の凛とした感じもいい。これは復讐劇という体裁を整えているが、事件そのものを描いていないので、その意味合いはうすい。どちらかというと少女の冒険と旅の物語なのだ。
ジョン・ウェイン主演の名作西部劇「勇気ある追跡」(1969)のリメイク。
コーエン兄弟「ノーカントリー」
コーエン兄弟「バーン・アフター・リーディング」
製作国:アメリカ
製作年:2010年
原題:True Grit
監督・脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ、ロバート・グラフ、デビッド・エリソン、ポール・シュウェイク、ミーガン・エリソン
原作 チャールズ・ポーティス
撮影 ロジャー・ディーキンス
音楽 カーター・バーウェル
出演:ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ヘイリー・スタインフェルド、ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパー
☆☆☆☆4
(ト)
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