「ハート・ロッカー」キャスリン・ビグロー

第82回アカデミー賞では作品賞以下6部門を受賞、ビグロー監督は女性で初めての監督賞受賞者となった。
このキャスリン・ビグローが、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者殺害について、映画化に向け準備しているのだという。ちょっとビックリ!以下記事より。

 CNN(電子版)など米メディアによると、ビグロー監督は、「ハート・ロッカー」の脚本を担当したマーク・ボール氏と再びタッグを組み、ビンラディン容疑者殺害作戦をめぐる映画の製作を準備している。

ビグロー監督はもともと、同容疑者を追跡する米兵の姿を通じ、米軍の同容疑者捕獲作戦の失敗について描く作品を企画。タイトルは「Kill Bin Laden」で、これまで失敗に終わった作戦などについて調査を行い、出演者の選考も進んでいた。

 今回、作戦は失敗せず同容疑者が殺害されたことで、ストーリー見直しの必要に迫られた。ボール氏の代理人は「米軍によるビンラディン容疑者追跡を描いた映画のプロジェクトは、今夏の(製作)開始に向け準備中」と話している。


さぁて、キャスリン・ビグロー監督はビンラディン殺害をどう描くのか?このいかにもアメリカ的な強引な解決に対しては国際法的にも様々な意見があるところだろう。興味津々だ。

冒頭に「戦争は麻薬だ」というメッセージが示される。中毒的な恐怖と興奮。

この「ハート・ロッカー」という映画は、死のギリギリの恐怖の中で生きる米兵の姿を克明に描いている。決して物語的なヒーローとしてでもなく、どちらかというとドキュメンタリー的な手法で、爆弾処理班の死の恐怖をリアリティ溢れる描写で。そこにはリアルな人間としてのアメリカ兵がいる。英雄でも犯罪者でもない、恐怖におののき、死にたくないと怯えるアメリカ兵が。そのなかにウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)という自ら危険に身を晒すような危険な男が登場する。まさに危険中毒症。死と隣り合わせで爆弾を処理し続ける男。処理した爆弾は800発以上。異常である。この映画はこの男をどう描いたのか。

彼はベトナム戦争後遺症のような病んだ男たちではない。ベトナム戦争そのものの不条理と狂気を描いた「地獄の黙示録」のような映画でもない。この映画は死の恐怖を描いているが、戦争そのものは描いていないのではないか。反戦映画でもないし、イラク戦争への疑問や批判的な映画でもない。死と背中合わせでギリギリの極限状況のなかで生きる「何も考えない」男。彼の家庭は戦争と対極の安らぎの場ですらない。シリアルが並べられている巨大なスーパーマーケットでの違和感。家庭もまた彼の場所ではないのだ。彼は子供に言う。「大人になるに従って、大切なものは少なくなってくる。お父さんはもう一つだけしかなくなってしまった。」そして、「自分にとってただ一つの大切なもの」がある戦場へと彼は再び戻っていく。爆薬処理こそが、彼にとっての大切な仕事なのだ。

戦争とは、そういう男を作りだしてしまう場所だということなのか。しかし、彼は狂気ではない。冷静に爆薬を処理し、多くの無駄な死から人々を救う男でもある。もう何も起こらない平穏な日常には戻れなくなってしまった極限状況を生きる男。この映画は、あくまでもそんな男を描きたかったために、設定として戦争という極限状況を使っただけのような気がする。

スリリングな映画であはるが、いま一つ響いてくるものがなかった。


原題:The Hurt Locker
製作国:2008年アメリカ映画
配給:ブロードメディア・スタジオ
監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
撮影:バリー・アクロイド
音楽:マルコ・ベルトラミ、バック・サンダース
キャスト:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ、ガイ・ピアース、レイフ・ファインズ、デビッド・モース、エバンジェリン・リリー、クリスチャン・カマルゴ

☆☆☆3
(ハ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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