「白いリボン」 ミヒャエル・ハネケ

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ミヒャエル・ハネケ初体験である。これまでハネケ作品となぜか縁が無かった。問題作も多く、いろいろと物議をかもしてきたオーストリアの鬼才ミヒャエル・ハネケも、この作品でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを獲った。

白黒の美しい映像。第1次世界大戦直前の北ドイツが舞台。教会や学校の指導でプロテスタントの教えを守って暮らしてきた小さな村で、不可解な事件が次々と起こる。その不穏な空気が静かに残酷に描かれる。ナチズム前夜のテロの暴力の温床ともいうべき空気を描きたかったのかもしれない。

しかし、観終わったもスッキリはしない。事件そのものが何一つ解決されないのだ。犯人は明かされないし、事件がなぜ起きたのか、解明もされない。観客は、ただただ解決されない村の不吉な空気を感じるだけだ。だから、ハリウッド的映画を見慣れた観客は、戸惑うばかりだろう。欲求不満のまま、映画館を後にする。

そう、これは描かない映画なのだ。肝心の場面はあえて何一つ描かない。表に出てこない。すべては裏のほうで起きている。秘かに、そしてコソコソと、暗闇で、密室で。

プロテスタントの厳しい教えのもと育てられる子ども達。牧師は子ども達に、「汚れなき純真無垢なる象徴」として子ども達の腕に白いリボンをつける。牧師の不寛容な厳しい態度は、時に鞭で罰し、ベッドに縛り付ける。鳥籠の中の鳥のように。荘園をもつ金持ちの男爵と小作人たちの生活の格差、そして医者は隣りの看護師と肉体だけの関係を持ち続け、飽きると身勝手に棄てて、娘に近親相姦めいた行為にまで及ぶ。

宗教、経済、知性の権威者たちが村で好き勝手に振る舞い、その父権主義的な圧力の中で、子どもたちや村人たちは歪んでいく。オカルト的な予知夢の少女まで登場し、次々と起こる暴力の連鎖は止まらない。不満や悪意や嫉妬や憎悪が、表に噴出することなく、静かに村の中に蔓延していく。

だから、事件は表に出ないし、犯人もわからないままだ。ハネケはあえて、それを描かない。事件や暴力や悪そのものを見せない。子ども達は、「死の影」に怯え、眠い目をこすりながら怪しげな父と姉の行為を意味もわからず眺めるだけだ。籠のなかの鳥は、十字架のように処刑され、無垢なる知恵遅れの少年は「光」を失う。これらの暴力は、誰がなんのためにやったのか?というよりも、<弱いものへの暴力>そのものを描くことに、この映画の主題があるのだ。強いものから弱い子ども達へ、さらなる弱いものたちへの暴力=テロリズム。

語りを担当する村の教師は、中立的で客観的なのだが、傍観者的でもある。ラスト、牧師の子ども達のことを疑いの目でもって牧師に告げるも、強権的に一喝され、表立った行動には出ない。知恵遅れの看護師の子どもが襲われた事件でも、予知夢の見たという少女を刑事に引き渡すばかりで、子ども達の味方にはなりはしない。子ども達の声に耳を傾けようとするも、最後まで傍観者のままで中途半端な存在だ。ある意味この男こそ、テロリズム(ナチズム)の暴力を止められなかった傍観者的加担者なのかもしれない。そのことをハネケは一番告げたかったからこそ、この小市民的良心的教師を語りにしたのかもしれない。

あらゆる意味で不気味な映画である。

原題:The White Ribbon
製作国:2009年ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア・ドイツ合作映画
監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本協力:ジャン=クロード・カリエール
撮影:クリスティアン・ベルガー
キャスト: クリスティアン・フリーデル、エルンスト・ヤコビ、レオニー・ベネシュ、デトレフ・ブック、アンネ=カトリン・グミッヒ

☆☆☆☆4
(シ)
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ジャンル : 映画

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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