「あの夏の子供たち」

子供たち


なんと美しく愛に満ちたフィルムだろう。失われた父への愛が充満している。その哀しみと愛おしさがせつなくなる。去年公開されて見逃した作品だが、この抑制された演出と映像の美しさ、映画的豊かさ。ベストワンにしたいぐらい僕は大好きな映画だ。

父がなくなって、途方に暮れた少女が泣きながらつぶやく。
「私たち、これからどうなるの?」
「君たちはね、大きくなって若い女の人になる。すごい美人に。そして恋人を見つける。」

と言われる場面がある。

ラストにA・ヒッチコックの『知りすぎていた男』の名曲、ドリス・デイの「ケセラセラ」がかかる。

「まだ私が少女だった頃、ママに尋ねたの 私の将来を
 私 きれいになる?お金持ちになる?
 ママはこう答えたわ ケ セラ セラ なりゆきに任せるのよ 
 先のことなんかわからないわ ケ セラ セラ 」

ラスト近くで家族で過ごしている時に突然停電になるシーンがある。このシーンがなんとも素晴らしい。まさに奇跡のような映画的な瞬間だ。
今後の生活をイタリアで過ごすか?パリに残るか、家族で食事しながら相談している場面。母がイタリアに引っ越したいと提案すると、娘が「パパの近くにいたい」と言う。その瞬間に突然電気が消えて真っ暗になるのだ。闇のなかで子供たちがはしゃぐ。灯されるやさしいロウソクの光。

「大好きなロウソク」「静かだわ」「ずっと停電ならいいのに」。
子供たちは静かに言い合う。死んだパパがそばにやってきたかのようだ。そして、みんなは家の外に出る。闇に包まれた戸外で星の光を見上げる。その瞬間に、光が灯る。停電が終わったのだ。なぜかみんながっかりする。日常に引き戻された瞬間。これこそ、映画なのではないか。つかの間の闇と光。この瞬間に、それぞれが何かを思う。闇の中で。やさしい光をたよりに。再び、日常に引き戻されるまでの夢のような時間。

パパである映画プロデューサー、グレゴワール(ルイ=ドー・ド・ランクザン)が生きていた頃、家族で週末をパリ郊外で過ごす至福の時間がまた素晴らしい。グレゴワールはどんなに忙しくても家族との時間を大切にしていた。携帯電話をいつも手離さず仕事の話ばかりをしていたけれど。娘から「ケータイ人間」と冷やかされるほどに。夜、子供たちが懐中電灯を照らしながら、ニュースごっこをする場面は、泣きたくなるほど家族の幸福な時間を描いている。さらに美しい川辺の散策や森の中の石が積まれた静かな礼拝堂のたたずまい、白く濁った水の滝壺で泳ぐ父と娘たち。

前半部のこの家族の美しき幸福な時間の描写と、グレゴワールが自殺した後の家族の哀しみの時間。そのどちらにも愛が溢れている。金策に追われながらも多忙な映画の仕事を抱える日常とのギャップ。
物語としては、金策に行き詰った映画プロデューサーの父の自殺があるだけ。隠し子のことや夫婦のことなど細かいことはあまり描かれない。描写は抑制されている。それなのに、とても映画的に豊かなのだ。

とにかく3姉妹は天使のように美しい。それぞれが父を想うその姿は、とにかく見ていて愛おしい。ラストのパリの町を見ながら流す長女の涙も美しい。そして、幸福な時間は一瞬で過ぎ去ってしまう。それはあの家族のニュースごっこや停電の時のように。光と闇に包まれた夢のような時間がとても愛おしい。この愛おしい時間を大切に抱えて、彼女たちはきっと美しい女性になるのだろう。


製作年 2009年
製作国 仏
原題 LE PERE DE MES ENFANTS
公開日 2010年5月29日(土)
監督 ミア・ハンセン=ラブ
脚本 ミア・ハンセン=ラヴ
撮影:パスカル・オフレー
キャスト: キアラ・カゼッリ、ルイ=ドー・ド・ランクザン、アリス・ド・ランクザン、アリス・ゴーティエ、マネル・ドリス、エリック・エルモスニーノ、サンドリーヌ・デュマ、ドミニク・フロ

☆☆☆☆☆5
(ア)
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テーマ : DVDで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 家族

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『あの夏の子供たち』 Le pére de mes enfants

フランス映画祭で観たのは三月のことだけど、時間がたってしまったからと流してしまうことはできない今年出逢った大切な映画。大好きな映画。シネマの生命の輝きを抱きしめよう。 ☆☆☆☆☆ 妻と3人の娘と暮らす独立系映画のプロデューサー、グレゴワールの経営する...

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非公開コメント

ヒデヨシさんの、コメントと解説を読んだだけで、映画を観た気分に、なってしまいました。きっと、素晴らしい映画の映画なんですね!
観させていただきます(^_^)

ベストワン候補!

ご覧いただき嬉しいですー。
ベストワン候補にしてもらえるとは感激。
こちらは今梅雨でジメジメしていますが、この映画の爽やかな初夏の香りを愛おしく思い出しました。
こうあってほしい映画のかたちの一つを極めていたと思えますー。

No title

*くまさん
書き込みありがとうございます。
なんで無責任に死んじゃうの?とは
もちろん思うのですが、実際にいたプロデューサーと監督自身の実話が
元になっているのようです。

映画への思いが溢れている映画だからこそ、好きだったのかもしれません。

*かえるさん
彼女の次回作が楽しみです。映画批評を書いていた方なんですね。

アンベール・バルザンという実在の自殺したプロデューサーと監督のミア・ハンセン=ラブが行き詰まった処女作。この映画が魅力的なのは、父の死と家族の再生の物語は、映画の死と再生の物語でもあることです。映画の行き詰まりを描いた映画は、フェリーニの『81/2』とかヴェンダースの『ことの次第』とかありますが、この作品と同じように映画への愛に溢れています。

この映画では、彼女自身の分身である若い新人監督が登場しますが、この家族の子供たちと同じように、彼が映画会社ムーン・フィルムの解体の末の希望です。長女の娘が彼が書いている脚本を、「幸福な終わり方にしてね」と書き置きを残します。そんな未来への希望が、あの夏の河畔の美しさとともに、とてもいい余韻を残してくれる映画でした。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

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    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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